2008年04月13日 01:07
深夜のキッチンから、ブツブツと声がする。
何を言っているかは聞き取れない。
かなりの長時間呟き続けると、その声の主はキッチンを離れ、寝室の扉を開けた。
香椎さんは薄めでその姿を確認する。
寝室の入り口には、暗く沈んだ表情の彼氏が立っていた。
彼は寝室に入ると、布団に潜り込む。
布団の中でもまんじりとしない様子だった彼が、やがて寝息を立て始めるのを確認して、香椎さんも眠りについた。
ある時から、彼が夜中に奇妙な行動を取るようになった。
寝ていたかと思うと、小さな悲鳴のような声を上げ、そして布団から出て行く。
トイレに行ったのかと、最初は気にしていなかった。
しかし、トイレではなくキッチンで何か呟きながらごそごそしている事に気づくと、気になって仕方がなかった。
一度、彼に問いただしたところ、トイレに行っただけだと否定された。
それから徐々に、奇行の頻度が増していった。
その夜も、彼は悲鳴とともに起き上がり、キッチンへと向かった。
心配した香椎さんは、そっとキッチンの様子を伺った。
彼は手に何かを持ち、一心不乱に同じ動作を繰り返していた。
・・・・・・塩を舐め続けている。
時折手を止めると、何事かを口にする。
まるで、誰かに言い訳しているかのように。
耳をそばだてた彼女は、信じられない言葉を聴いた。
「・・・・・・俺は殺していない・・・・・・」
忘れようとしたものの、どうしても忘れられず、ある日香椎さんは彼に問い質した。
そんな事は言っていない、と頑なに否定する彼に、言わないなら別れる、と告げた。
すると観念したのか、彼が言った。
「・・・・・・前の彼女に出来た子供を、堕ろさせた事がある・・・・・・」
彼が寝ていると、口中に違和感を感じた。
小さな肉塊が、口の内側にべったりと張り付き、呼吸を妨げる。
その肉塊は蠢き、口への出入りを繰り返した。
目を覚ますと、口の中には何もない。ただ、違和感だけが残った。
やがて、その違和感は夜中だけでなく、日中にも感じ始めるようになった。
そして次第に、その違和感が形となって現れ始めた。
口の中が腐敗していく感じ。
食べ物の味も感じられない。それどころかその腐臭に吐き気すら覚えるようになった。
口臭除去材も、歯磨きも効果がなかった。
思い悩んだ彼は、ふと思いつき、塩を舐めてみた。
そうすると、一時的にそれらの現象は収まった。
しかし、しばらくすると再び肉塊が現れるようになる。
その度に、彼は塩を舐めていたのだ。
「・・・・頼む。もう一人じゃ謝心細いから、一緒に住んでくれないか」
そう言いながら、彼女を抱きしめた彼の吐息が、腐ったような嫌な臭いだった。
間もなく、香椎さんは彼と別れた。
その直前の夜に、彼女は見てしまった。
彼の首にまとわりつく、小さな黒い塊を。
(超-1 2008/「穢れたお清め」より)
何を言っているかは聞き取れない。
かなりの長時間呟き続けると、その声の主はキッチンを離れ、寝室の扉を開けた。
香椎さんは薄めでその姿を確認する。
寝室の入り口には、暗く沈んだ表情の彼氏が立っていた。
彼は寝室に入ると、布団に潜り込む。
布団の中でもまんじりとしない様子だった彼が、やがて寝息を立て始めるのを確認して、香椎さんも眠りについた。
ある時から、彼が夜中に奇妙な行動を取るようになった。
寝ていたかと思うと、小さな悲鳴のような声を上げ、そして布団から出て行く。
トイレに行ったのかと、最初は気にしていなかった。
しかし、トイレではなくキッチンで何か呟きながらごそごそしている事に気づくと、気になって仕方がなかった。
一度、彼に問いただしたところ、トイレに行っただけだと否定された。
それから徐々に、奇行の頻度が増していった。
その夜も、彼は悲鳴とともに起き上がり、キッチンへと向かった。
心配した香椎さんは、そっとキッチンの様子を伺った。
彼は手に何かを持ち、一心不乱に同じ動作を繰り返していた。
・・・・・・塩を舐め続けている。
時折手を止めると、何事かを口にする。
まるで、誰かに言い訳しているかのように。
耳をそばだてた彼女は、信じられない言葉を聴いた。
「・・・・・・俺は殺していない・・・・・・」
忘れようとしたものの、どうしても忘れられず、ある日香椎さんは彼に問い質した。
そんな事は言っていない、と頑なに否定する彼に、言わないなら別れる、と告げた。
すると観念したのか、彼が言った。
「・・・・・・前の彼女に出来た子供を、堕ろさせた事がある・・・・・・」
彼が寝ていると、口中に違和感を感じた。
小さな肉塊が、口の内側にべったりと張り付き、呼吸を妨げる。
その肉塊は蠢き、口への出入りを繰り返した。
目を覚ますと、口の中には何もない。ただ、違和感だけが残った。
やがて、その違和感は夜中だけでなく、日中にも感じ始めるようになった。
そして次第に、その違和感が形となって現れ始めた。
口の中が腐敗していく感じ。
食べ物の味も感じられない。それどころかその腐臭に吐き気すら覚えるようになった。
口臭除去材も、歯磨きも効果がなかった。
思い悩んだ彼は、ふと思いつき、塩を舐めてみた。
そうすると、一時的にそれらの現象は収まった。
しかし、しばらくすると再び肉塊が現れるようになる。
その度に、彼は塩を舐めていたのだ。
「・・・・頼む。もう一人じゃ謝心細いから、一緒に住んでくれないか」
そう言いながら、彼女を抱きしめた彼の吐息が、腐ったような嫌な臭いだった。
間もなく、香椎さんは彼と別れた。
その直前の夜に、彼女は見てしまった。
彼の首にまとわりつく、小さな黒い塊を。
(超-1 2008/「穢れたお清め」より)




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