【リライト】冬のアレ

2008年04月13日 01:09

 尾形さんの部屋に、いつの間にか同居人が二人も増えていた。
 同居人は彼女が眠ろうと照明を消すと姿を現す。
 試しに照明を点けたままにすると、いつの間にか消されている。
 二人は交互に現れ、同時にやってくる事はなかった。

 ひとりは一年ほど前から現れるようになった、南側の壁に向かって蹲った、陰気で存在感の薄い女。
 ぼんやりしたその女は、時折めそめそと泣いている事がある。
 ただ、鬱陶しいものの何もしてこないので、彼女は気にせず眠った。

 もうひとりは半年ほど前から現れるようになった。
 薄い女と違い、その女はとにかく落ち着きがない。
 デニムのスリムストレートパンツを履きこなす、綺麗なロングヘアーの美人。
 彼女は床から少し体を浮かせ、上下にふわふわ揺れながら室内を徘徊する。
 そして時折、ベッドの傍らでふわふわ漂いながら、無表情のまま、横になっている尾形さんを見下ろす。
 悪意はなさそうなのだが、気が散って眠れない。
 彼女が現れた翌朝は、寝不足でフラフラになりながら出勤する羽目になった。

 冬の寒い夜、ベッドの中で尾形さんが縮こまっていると、落ち着きがない方の女が現れた。
 いつも通りの着こなしといつも通りのメイク、そしていつも通りの落ち着きのなさ。
 しかし、彼女のロングヘアーだけが、ぼわっと膨らんで広がっている。
 彼女がパソコンの前に近づくと、ディスプレイが仄かに明滅した。
 不思議に思った尾形さんは、彼女の動きを目で追った。
 彼女はふわふわ漂いながら、ソファへと近づいた。
 そのソファの肘掛けに、尾形さんが脱ぎ捨てたニットのカーディガンが掛けられているのが目に留まった。
 女がその前を通った時。

 ぱちっ。

 小さな音とともに、室内に青白い閃光が走った。
 尾形さんも驚いていたが、女も驚いたのか、ソファから飛び退いた。

(……静電気?)

 そう思った尾形さんに向かって、女がゆっくりと近づいてくる。
 その表情がいつもと違って険しい。
 まるで怒っているようだ。
 険しい表情で見下ろす女に、尾形さんは背を向けた。
(なんで? 何で怒ってんの? それ、あたしのせいじゃないでしょ?)
 そんなことをずっと頭の中で考えているうち、背後の気配は薄れていった。

 尾形さんは翌日、静電気防止スプレーを買って帰ってきた。
 毛布や衣類にスプレーを噴射しておいたが、落ち着きのない女は二度と現れなかった。

 蹲る女はと言うと、今でも時折現れてはめそめそと泣いたりしている。

(超-1 2008/「冬のアレ」より)


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