【リライト】究極の選択

2008年04月13日 01:14

 熊谷さんは、同姓が目を見張るほどの美人。
 しかし、二十年以上彼氏がいない。
 性格や社交性に問題があるわけではなく、友人も多く、男性からも引く手あまたである。
 しかし、交際をはじめようとすると、どういう訳かうまくいかない。
 相手のギャンブル癖や借金、女癖の悪さなどが露呈するのは序の口。
 ある男性からはいきなり、「お前、なんか怖いよ」と別れを切り出された事まである。
 さすがに腹が立って問いただすと、「たまに目が笑っていない事がある、おかしい」と、さらにダメ出しをされた。

 熊谷さんが二十七歳になろうかという頃、会社の創立五周年パーティの打ち合わせに参加した。
 その場で、上司はあるご婦人を彼女に紹介した。
 気品のあるそのご婦人は、社のお偉方が懇意にしている霊能者なのだという。
 そういうものをあまり信じていなかった彼女は、深入りしないようにそそくさと挨拶を済ませた。

「あの……」
 打ち合わせが一段落した時、あのご婦人に声を掛けられた。
 気づくと、その場には彼女とご婦人の二人だけ。
 戸惑っている彼女に、ご婦人は躊躇いながら話を続けた。
「言おうかどうか迷ったのだけど……あなたの後ろにはずいぶん前から男性が憑いてるようです。
 あなたとは全くの他人のようですが、あなたを気に入っているようです」
 突然の話に面食らう彼女に、ご婦人はなおも続けた。
「彼はいろいろな事からあなたを守ってくれています。
 ですが、その代わりに、あなたを誰かに取られる事を恐れています。思い当たる事があるでしょう?」
 ないと言えば嘘になる。
 だが、にわかには信じがたい。
「いえ、無理に信じてくださらなくてもいいんです。
 ただ……このままだと、あなたはずっと一人のままです。そのうちに、家族や友人との縁も薄くなるかもしれません。
 もし今度、あなたが誰かと一緒になろうと思ったなら……今度は死人が出ます」
 強い口調でそう言い終えると、ご婦人は続けて、ひとつの方法を彼女に教えた。

 何でもいいので人形を一体用意し、自分の名前を書き込み、写真を貼る。
 その人形に四十九日間、毎日欠かさず三度の食事を供え、夜は一緒に眠る。
 その人形に対し、言い聞かせるように、自分の名前を声に出して言う。
 四十九日が過ぎた後、その人形をご婦人が指定した川に流すのだ。

 ただし、それは彼女の魂の一部を人形に移す事になる。
 当然、心身に多少の影響を及ぼす。
 しかし、それで良縁を失わずに済む。

 一方、現状のままだとどうなるか。
 人との縁は薄れ、強めようとすると犠牲者が出る可能性がある。
 ただし、彼女自身の運命は守られている。
 現に、これまで様々なトラブルがあったが、不思議なほど良い方向に転がり、彼女は災難を免れている。

 良縁を取るか。
 強運を取るか。

「払えませんか?」
 彼女は尋ねてみたが、婦人は力なく首を横に振った。

 熊谷さんは今、その決断を下せずに悩んでいる。

(超-1 2008/「究極の選択」より)


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