【リライト】置き土産

2008年04月15日 00:35

 雅仁さんはバイト帰りの夕方の帰り道、バイクを走らせていた
 まだ明るく、郊外の空いた県道は見通しが良かった。
 拓けた曲がり角の先に、奇妙なものがある。

 道路の真ん中に巨大な水たまり。その中心に、薄汚れた赤い服を着た髪の長い女がひとり、ずぶ濡れで立っている。
 その表情は、貼り付いた黒髪に隠れて窺い知れない。
 その姿は風景から浮き上がって、古ぼけた写真のように見えた。

 雅仁さんは見ないふりをした。
 しかし通り過ぎてから、どうしても気になって仕方がない。
 思わずバイクを止め、恐る恐る振り返った。
 女と水たまりは姿を消していた。

 雅仁さんは後悔した。
 嫌な予感がした彼は、幼馴染みでバンド仲間の健次さんの家に立ち寄った。
 友人の急な訪問にも慣れた様子の健次さんに、雅仁さんはさっきの出来事を話し、家まで送ってくれないかと頼んだ。
「野郎の送迎なんて嫌だ」
 その一言であっさり却下され、雅仁さんは仕方なく、暗くなり始めた道を家路に向かって走り出した。

 雅仁さんが帰ってから、健次さんは離れの部屋で漫画を読んでいた。
 コン、コン。
 その部屋の扉をノックする音がした。
 その離れはバンドの練習場所になっていて、先程の雅仁さんのように、予告なしに友人が訪れるのは日常茶飯事だった。
 いつも通り彼は扉を開けたが、誰もいない。
 気のせいかと思い、扉を閉めると、再び漫画を読み始めた。
 コン、コン。
 再び、扉をノックする音がする。
 扉を開けるが、誰もいない。
 それが一晩中続いた。

 朝になり、寝不足の彼は腹を立てながら、昨晩のことと雅仁さんの話を、母に聞かせた。
 母は怖がるどころか、何故かしきりに感心していた。
「まだ出るんだ」
 話を聞き終わると、あっけらかんと彼女は言った。

 雅仁さんが女を目撃したその場所では、数年前に陰惨な殺人事件が発生していた。
 当時、その場所には被害者の女性の霊が出ると噂になった。
 血まみれの女が恨めしそうに立っているとか、血まみれの女に追いかけ回されるなど、ずいぶんと騒がれていたのだが、時が経つにつれて噂は沈静化した。

 後日、健次さんは雅仁さんにその話をした。
「だから送ってくれって言ったんだよ」
 勝ち誇ったようにそう言った雅仁さんは、その日からしばらくの間、あの離れへの出入りを禁止されてしまった。

(超-1 2008/「置き土産」より)


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