【リライト】世話好き

2008年04月15日 00:53

「最初に気付いたのは、風邪で寝込んでいる時だったかな」

 一人暮らしの1DKで、美恵さんは熱にぼーっとしながら横になっていた。
 その額に、そっと手が添えられた。
 ひんやりとした手は、彼女の額を優しく、看病するように撫でる。
 すうっと重苦しさが和らぎ、彼女は安心感を憶えた。
 気になって彼女が目を開けると、その手は消えていた。

 どうにか体調が回復しはじめ、彼女は久しぶりにお風呂に入ることにした。
 軽くお湯で溶いたシャンプーを髪に付け、ゆっくりと泡立てはじめる。
 その彼女の頭を、優しくマッサージする手がある。
 シャワーで泡を洗い流し、お湯を拭って顔を上げた。
 目の前には、浴室の壁があるだけ。
 ただ、寝ている時と同様に、怖さや薄気味悪さはまったくなかった。

 それからたびたび、それは彼女が体調を崩す度に現れた。
 喘息の発作で息が詰まり、痰を出そうと咳き込んでいると、その背中をそっとさする手があった。
 ぎっくり腰になった時は、腰から足にかけて、ほぐすようにさする手があった。
 いずれも感触はあるのだが、手そのものを見たことはなかった。
 包み込むような、大きなてのひら。

「まるでお父さんが、子供の世話を焼いてるみたいだったの。ただね……」

 美恵さんはそこで苦笑した。
 彼女にとっては優しいその手だったが、その彼にはそうでもなかったのだ。
 彼が遊びに来ると、どこからともなく小石が飛んでくる。
 その大きさも、豆粒程度から五百円玉サイズまで様々。
 中には、五分おきに小石の爆撃を受けた彼もいた。

「ここに来てから、彼氏に三人も逃げられちゃって……」

 そう言って笑う彼女の隣では、現在の彼が彼女の話に苦笑していた。
 今のところ、彼にだけは小石攻撃は行われていない。

 彼と彼女は、今秋にゴールインする予定だ。

(超-1 2008/「世話好き」より)


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