【リライト】カエル男

2008年04月16日 23:38

 引田さんは三人の仲間と、心霊スポットと噂されている某病院跡地に行った。
 行ったはいいが、中に入るのも怖く、車中から建物の外観を眺めるだけで時間が過ぎていく。
「帰ろうか」
 仲間の一言に、運転席の友人が発進しようとバックミラーを確認した。
「おい、人が来てるぞ……」
 その声に、四人は振り返った。
 黒いシルエットがひとつ、彼らの方に向かって近づいてくる。
 
 ある程度距離が縮まり、その姿が明るみになると、彼らは言葉を失った。
 モーニングにシルクハット。オーダーメイドと思われる靴をかつかつ鳴らしながら歩く。
 その歩みには一部の迷いもない。

 その容姿は、日本の廃れた心霊スポットには、あまりにも似つかわしくない。
 というより、あまりにも異様な雰囲気だ。
 迷わずアクセルを踏み込む。
 男との距離がどんどん離れていく。
 四人はほっと胸をなで下ろした。

 しかし、後部座席にいた引田さんは見てしまった。
 どんどん引き離されていく紳士が、不意にしゃがんだ。
 そして、次の瞬間、四肢を突っ張って跳び上がったのだ。
 しゃがんで、跳ねて、しゃがんで、跳ねて。
 そのカエルのような動きで、徐々にその幅を狭めてくる。
「うわっ! さっきの奴が追いかけてくるぞ!」

 引田さんの声に、運転席以外の奴がみんな振り返り、声を上げた。
「何言ってんだよ、こっちは車……」
 言いかけていた運転手も、バックミラーからカエル男の姿を見てしまった。
 途端にアクセルをふかし、さらに引き離そうとする。
 時速は100キロを超えていた。
 しかしカエル男は引き離されるどころか、徐々に追いついてくる。
 そして、車の横に来た。跳びながら、涼しげな顔だけをこちらに向けている、
 そしてそのまま、窓に顔を近づけた。

「憶えてるよ」

 抑揚のない、息も上がっていない声で言い残すと、男は国道の闇を飛び去っていった。

(超-1 2008/「カエル男」より)


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