【リライト】山狩り

2008年04月18日 23:24

 太平洋戦争中、祖父の住む地域のある若者が姿を消した。
 赤紙を受けて逃亡したのだ。
 兵役逃れは重罪であり、当人だけでなく家族、そして地域住人にも憲兵の厳しい追及や迫害が及ぶ。
 交通の便が良くない時代、逃亡できるのは山奥しかない。
 すぐに捜索隊が結成され、山狩りが行われた。
 その中に、祖父の姿もあった。

 捜索は日が暮れるまで続けられた。
 しかし若者を見つけることが出来ず、その日の捜索を切り上げようという話になった。
 祖父達のグループも引き揚げようとした。
 その時、草木を揺らす音が聞こえてきた。
 あの若者か、と思いその方向を見た祖父達は、言葉を失った。
 月光に照らし出される、細長く巨大な体。
 丸太のような太さのその先端には、ぽっかりと口が開いている。
 しかし、目鼻とおぼしきものが見あたらない。
 巨大なミミズのようなその姿。

 山神様だ。

 そう思ったのは祖父だけではなかったらしい。
 その山に山神様がいる、と言う話は、この近辺に住む者はみな年長者から教えられてきた。
 皆、息を潜め、刺激をしないように後じさりをはじめ、その場を後にした。

 翌日、あの若者が山中で発見された。
 頭髪が殆ど抜け落ち、正気を失っていた。
 若者は病院に運ばれ、その後、その姿を見ることはなかった。

 あの若者にとっては、戦争に行くことと、山に逃げ込むこと、どちらが良かったのだろうか。

(超-1 2008/「山狩り」より)


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