2008年04月01日 22:46
「うちに、おばけが出っとだよ」
母の言葉に、田辺さんは面食らった。
久々の熊本への里帰りの、久々の家族揃っての夕食の席。
そもそも里帰り自体が、この母に請われての火急のものだった。
その理由がこれか、と呆れてしまった。
「いい大人が揃いも揃って、何を言い出すんだよ?」
田辺さんはその手の話は全く信じていない。
「本当たい。二階のお父さんの部屋に出っと」
田辺さんの実家は曾祖父の代からの、威厳のある日本家屋だ。
最近になって、春に同居予定の兄夫婦の為に、二世帯風の改築を施したばかりである。
父はその改築部分の、二階の日当たりの良い八畳間を使用している。
「でも、何で新しい部屋におばけが出るんだよ?」
「そぎゃんこといったってなあ…」
「だけん、茂にも確かめて貰いたくて」
結局田辺さんは、家族の懇願の眼差しに負けた。
その夜、木の香りがまだ漂う室内で、田辺さんは家族全員の不甲斐なさに腹を立てながら、真新しい天井板を睨みつけていた。
その彼の全身を、緊張が駆け巡った。
何だ? と思った時にはもう動けなくなっていた。
その彼に向かって、部屋の暗がりから、巨大な手が迫ってきた。
そして、彼の頭上で大きく振りかぶり、ぴたっ、と止まった。
この体制、まさか? と思った刹那。
ばっしーん!
巨大な手に、布団ごと跳ね除けられた。
慌てて起き上がると、元の布団の中。
夢……だよな?
そう結論づけて、布団を戻して眠りについた。
間もなく、また緊張が駆け巡る。
闇から手が迫る。
大きく振りかぶって。
ばっしーん!
再び叩き飛ばされた。
頭をひねりながらも、田辺さんは寝ようとした。が。
動けなくなる。
手が現れる。
叩き飛ばされる。
朝になるまで、その攻防は続いた。
翌朝、疲労困憊の田辺さんの顔を見て、家族全員が顔を見合わせた。
最初に体験した父の話を聞いた全員があの部屋に寝て、同じ体験をしたのだという。
それだけではなく、父の健康状態も徐々に悪化しているようだった。
数日後、母から相談を受けていた広島の大叔母が、田辺家を訪れた。
大叔母は開口一番、
「こりゃぁ何か? きょうびの若い人はこがぁな事も知らんのんか?
大工もこがぁな適当な仕事をすなんて!」
と激怒しながら、件の部屋の真下にあたる部屋へ、ずかずかと入っていく。
「二階が神棚に被っとる。こがぁな失礼をすりゃ、神様が怒るんも当たり前じゃ!
誰か、紙と書くもん持ってこんか!」
大叔母の様子に呆気に取られた家族が用意したのは、スーパーの広告と油性マジック。
それらを受け取った大叔母は、広告の裏面に大きく”天”という字を書いた。
「これを神棚の真上に貼りんさい。たぶん、今日からなんも起きんくなるけぇ」
半信半疑の家族だったが、その言葉に従った。
そしてその言葉の通り、その晩から悪夢を見る事はなくなった。
だが、田辺さんは納得がいかなかった。
立派なお札ではなく、よりによってスーパーの広告で、何で効果がある?
あまりにもすっきりしないので、紙をはがして寝てみた。
また、ばっしーん! とやられた。
(超-1 2008/「天」より改題)
※せんべい猫より
このお話の原題は「『天』」という題名でしたが、この「天」の字に関するかなり有名なエピソードが大手の怪談本に収録されており、そのエピソードをご存じの方々には展開が読めてしまう結果となっていました。
リライトにあたり、このエピソードのキモは「天」そのものよりも、体験者の田辺さんの懲りない性分と、良い意味での予測通りの出来事にあると判断し、その出来事を象徴する擬音である「ばっしーん!」を題名に据えさせていただきました。
改題について、ご理解いただければ幸いです。
母の言葉に、田辺さんは面食らった。
久々の熊本への里帰りの、久々の家族揃っての夕食の席。
そもそも里帰り自体が、この母に請われての火急のものだった。
その理由がこれか、と呆れてしまった。
「いい大人が揃いも揃って、何を言い出すんだよ?」
田辺さんはその手の話は全く信じていない。
「本当たい。二階のお父さんの部屋に出っと」
田辺さんの実家は曾祖父の代からの、威厳のある日本家屋だ。
最近になって、春に同居予定の兄夫婦の為に、二世帯風の改築を施したばかりである。
父はその改築部分の、二階の日当たりの良い八畳間を使用している。
「でも、何で新しい部屋におばけが出るんだよ?」
「そぎゃんこといったってなあ…」
「だけん、茂にも確かめて貰いたくて」
結局田辺さんは、家族の懇願の眼差しに負けた。
その夜、木の香りがまだ漂う室内で、田辺さんは家族全員の不甲斐なさに腹を立てながら、真新しい天井板を睨みつけていた。
その彼の全身を、緊張が駆け巡った。
何だ? と思った時にはもう動けなくなっていた。
その彼に向かって、部屋の暗がりから、巨大な手が迫ってきた。
そして、彼の頭上で大きく振りかぶり、ぴたっ、と止まった。
この体制、まさか? と思った刹那。
ばっしーん!
巨大な手に、布団ごと跳ね除けられた。
慌てて起き上がると、元の布団の中。
夢……だよな?
そう結論づけて、布団を戻して眠りについた。
間もなく、また緊張が駆け巡る。
闇から手が迫る。
大きく振りかぶって。
ばっしーん!
再び叩き飛ばされた。
頭をひねりながらも、田辺さんは寝ようとした。が。
動けなくなる。
手が現れる。
叩き飛ばされる。
朝になるまで、その攻防は続いた。
翌朝、疲労困憊の田辺さんの顔を見て、家族全員が顔を見合わせた。
最初に体験した父の話を聞いた全員があの部屋に寝て、同じ体験をしたのだという。
それだけではなく、父の健康状態も徐々に悪化しているようだった。
数日後、母から相談を受けていた広島の大叔母が、田辺家を訪れた。
大叔母は開口一番、
「こりゃぁ何か? きょうびの若い人はこがぁな事も知らんのんか?
大工もこがぁな適当な仕事をすなんて!」
と激怒しながら、件の部屋の真下にあたる部屋へ、ずかずかと入っていく。
「二階が神棚に被っとる。こがぁな失礼をすりゃ、神様が怒るんも当たり前じゃ!
誰か、紙と書くもん持ってこんか!」
大叔母の様子に呆気に取られた家族が用意したのは、スーパーの広告と油性マジック。
それらを受け取った大叔母は、広告の裏面に大きく”天”という字を書いた。
「これを神棚の真上に貼りんさい。たぶん、今日からなんも起きんくなるけぇ」
半信半疑の家族だったが、その言葉に従った。
そしてその言葉の通り、その晩から悪夢を見る事はなくなった。
だが、田辺さんは納得がいかなかった。
立派なお札ではなく、よりによってスーパーの広告で、何で効果がある?
あまりにもすっきりしないので、紙をはがして寝てみた。
また、ばっしーん! とやられた。
(超-1 2008/「天」より改題)
※せんべい猫より
このお話の原題は「『天』」という題名でしたが、この「天」の字に関するかなり有名なエピソードが大手の怪談本に収録されており、そのエピソードをご存じの方々には展開が読めてしまう結果となっていました。
リライトにあたり、このエピソードのキモは「天」そのものよりも、体験者の田辺さんの懲りない性分と、良い意味での予測通りの出来事にあると判断し、その出来事を象徴する擬音である「ばっしーん!」を題名に据えさせていただきました。
改題について、ご理解いただければ幸いです。






コメント
GIMA | URL | n8/VADVs
先を越されてしまいましたw
はじめまして。
全リライトですか。ものすごい労力かと思いますが、がんばってください。拝読しております。
さて、講評はしなかったものの、この「天」に関してはせんべい猫様と同様の理由であまりいい印象を持たなかったのですが、むしろ怪異のメインを「天」に求めるべき話ではないかも知れないと思い、機会があれば作者へのおわびの意味も込めてリライトしようかなと思っておりました。
が、まさに私がリライトしようと思っていた同様の着眼点でせんべい猫様がリライトされたので、この作品に関するリライトはしないことにしました。
体験者の懐疑主義はくだくだしく書かない、「天」については、さらっと記述、そしてタイトル。
最初からこういう感じであれば、「類話がある」とは言われなかったかと思います。
……それにしても、本当に全話リライトされるのでしょうか。(((( ;゜Д゜)))ガクガクブルブル
では、失礼いたします。
( 2008年04月05日 18:54 [編集] )
せんべい猫 | URL | TVCQ2tMo
感想ありがとうございます。
>GIMA様
ありがとうございます。
このお話に関しては、本人のせいじゃないのに点が低くなるという、言わばとばっちりに近い気がしていたので、少しでもそれを払拭出来れば、と思いリライトしました。
リライトは人によって全く違う味が出るものだと思いますので、GIMA様のリライト作も読んでみたいです。
全作リライト、言ってみたもののキツいです。
何個か、元の完成度が高すぎて手の加えようがない話にぶちあたると、筆が止まります。
それに今日はSPのスペシャルもありましたしw
また感想をお聞かせください。
( 2008年04月06日 04:39 [編集] )
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