【リライト】おめかしして

2008年04月18日 23:25

 村木さんは仕事帰りに、ショッピングセンター街のディスプレイを眺めて歩いていた。
 すると、ガラスに映り込む自分の姿の後ろに、小さな人影があることに気付いた。
 振り向くと、誰もいない。
 特に気にせず歩き出し、別の店の前に来るとディスプレイを眺めた。
 また小さな姿がある。

 苺飾りの付いたストローハットから、いたずらっぽい笑顔を覗かせた、七歳くらいの女の子。
 肩に掛かるくらいの三つ編みの先端には赤いリボンが揺れている。
 袖口にフリルがついたパフスリーブブラウスの上から、やはりフリルで飾られた紅白チェックのサロペットスカートを着ている。
 白いレースの靴下と、鮮やかな深紅のエナメル靴。
 子供向けファッション雑誌の表紙を飾る、少女モデルのファッションのようだ。

 村木さんは、再びゆっくりと振り返った。
 しかし、路上に女の子の姿はなかった。
 行き交う人々の中にも、その姿はない。
 あれだけ目を引くファッションだ。見落とすはずがない。

 少し気味が悪くなった彼女は、ウィンドウショッピングを切り上げると駅へ向かい、帰りの電車に乗った。
 車内を写すガラスには、彼女の姿だけが映っていた。
 一度乗り換えることがあったが、その車内でも異常はなかった。
 小一時間ほどして、電車は自宅近くの駅に到着した。
 駅を出て商店街を通り抜ける時、ふと、ある店のウィンドウを覗き込んだ。

 あの女の子がいた。
 初めてのよそ行きを着てはしゃいでいるような、むじゃきな笑顔。

 村木さんはなんだか、その女の子の姿が微笑ましく、いじらしく感じた。
(おめかしして、お出かけなんだね)
 彼女はそう思いながら、女の子に微笑みかけた。
 すると、ガラスの中の女の子と目が合った。
 女の子は酷く驚き、後じさった。
 彼女は振り返ったが、やはりそこに女の子の姿はなかった。

 それから、女の子が彼女の前に姿を現すことはなくなった。

(超-1 2008/「おめかしして」より)


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