2008年04月18日 23:42
武井さんは一度だけ、人を呪ったことがある。
若かった彼女には年の近い大学生の彼氏がいた。
三年ほどの交際は、彼から一方的に絶ち切られた。
彼女は自分の存在意義を見失い、絶望に沈んでいた。
そんな時、たまたま書店で見かけた怪しげな本に、憎い相手を呪う方法が載っていた。
誰でも買える本に載っている、子供だましとも思える呪いの手段。
彼女はそれを実行した。
それで吹っ切れたのか、彼女は徐々に元気を取り戻した。
仕事も変え、心機一転、人生を楽しもうと思った。
元気を取り戻してからの彼女は、友達も増え、異性との出会いも増えた。
しかし、異性とつきあい始めると、何かしらの邪魔が入ってすぐに別れてしまう。
相手の転勤が決まったり、引っ越しが決まったり、仕事が駄目になったりと、理由は様々だった。
ある時、つきあって間もない男が事故に巻き込まれ、重傷を負った。
これまでのこともあり、ぎくしゃくし出した二人は間もなく別れた。
またある時、駅で彼女を笑顔で見送った男が、帰宅後にマンションから飛び降りた。
幸い命は助かったものの、下半身不随となってしまった。
飛び降りは思い詰めてのことではなく、衝動的なものだったらしい。
二年間、十人以上の男性とそういう別れを経験すると、さすがに偶然とは思えなくなってきた。
さらに、彼女自身の体にも異変が表れ始めていた。
手の甲に、赤い小さな点々ができていた。
ダニにでも噛まれたのだろうかと放っておいたが、それは小さなシミとなって消えなかった。
そんな日が続き、彼女は不意にあの呪いのこと、そして彼のことを思い出していた。
そして、部屋の片隅にあった、熊のぬいぐるみを手にした。
あの彼からもらったぬいぐるみだ。
「痛っ!」
ぬいぐるみを触っていた彼女の指に、ちくっと痛みが走った。
指先を見ると、血が滲み出している。
慎重にぬいぐるみを探ると、そのお腹のあたりに異物があった。
取り出してみると、それは長い縫い針だった。
もしかして、私よりも先に、彼が私を呪っていたのだろうか。
真相はわからない。
調べようにも、彼の行方を知るものがいなかった。
共通の知人も、彼と連絡が取れなくなっているという。
武井さんは今もひとりだ。
手の甲には、相変わらず赤い小さなシミがある。
(超-1 2008/「お互い様」より)
若かった彼女には年の近い大学生の彼氏がいた。
三年ほどの交際は、彼から一方的に絶ち切られた。
彼女は自分の存在意義を見失い、絶望に沈んでいた。
そんな時、たまたま書店で見かけた怪しげな本に、憎い相手を呪う方法が載っていた。
誰でも買える本に載っている、子供だましとも思える呪いの手段。
彼女はそれを実行した。
それで吹っ切れたのか、彼女は徐々に元気を取り戻した。
仕事も変え、心機一転、人生を楽しもうと思った。
元気を取り戻してからの彼女は、友達も増え、異性との出会いも増えた。
しかし、異性とつきあい始めると、何かしらの邪魔が入ってすぐに別れてしまう。
相手の転勤が決まったり、引っ越しが決まったり、仕事が駄目になったりと、理由は様々だった。
ある時、つきあって間もない男が事故に巻き込まれ、重傷を負った。
これまでのこともあり、ぎくしゃくし出した二人は間もなく別れた。
またある時、駅で彼女を笑顔で見送った男が、帰宅後にマンションから飛び降りた。
幸い命は助かったものの、下半身不随となってしまった。
飛び降りは思い詰めてのことではなく、衝動的なものだったらしい。
二年間、十人以上の男性とそういう別れを経験すると、さすがに偶然とは思えなくなってきた。
さらに、彼女自身の体にも異変が表れ始めていた。
手の甲に、赤い小さな点々ができていた。
ダニにでも噛まれたのだろうかと放っておいたが、それは小さなシミとなって消えなかった。
そんな日が続き、彼女は不意にあの呪いのこと、そして彼のことを思い出していた。
そして、部屋の片隅にあった、熊のぬいぐるみを手にした。
あの彼からもらったぬいぐるみだ。
「痛っ!」
ぬいぐるみを触っていた彼女の指に、ちくっと痛みが走った。
指先を見ると、血が滲み出している。
慎重にぬいぐるみを探ると、そのお腹のあたりに異物があった。
取り出してみると、それは長い縫い針だった。
もしかして、私よりも先に、彼が私を呪っていたのだろうか。
真相はわからない。
調べようにも、彼の行方を知るものがいなかった。
共通の知人も、彼と連絡が取れなくなっているという。
武井さんは今もひとりだ。
手の甲には、相変わらず赤い小さなシミがある。
(超-1 2008/「お互い様」より)




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