【リライト】夜勤中

2008年04月21日 03:23

 家蔵さんは高校を卒業後、精密機器の部品加工会社に就職した。
 鉄板を大小様々なパーツへ切削加工を行うラインに配属され、半年ほどが過ぎ、初めての夜勤を行うことになった。

 昼間と違い、夜の工場内は機械音だけが響いていた。
 しかし、昼間とは別種の気配があった。
 機械音の合間に、ぼそぼそと囁くような、小さな声が漏れ聞こえてくる。
 近辺には他の従業員の姿はない。
 エアコンか何かの音だ、と彼は思うことにして、黙々と作業を続けた。

 材料の鉄板を入れ替えようと、家蔵さんは機械の一時停止ボタンを押し、セット場所に手を伸ばした。
 その時、彼の目の前を、煙のような白いものが通り過ぎた。
 ラインの至る所では、潤滑や研磨加工に油が使われており、稼働中は蒸気や煙が発生しやすい。
 彼は特に不審に思うことなく、なんとなく煙を目で追った。
 途端、鳥肌が立った。
 煙と思っていたそれが、子供の姿をしていたからだ。
 大きさは七歳くらいの子供と同じくらいで、長袖のブレザーのようなものを着ている。
 しかし、その体には首と腰から下がなかった。
 言葉を失い硬直している彼の前を、それはゆっくり通り過ぎ、壁の向こうに消えていった。

 次の瞬間、あのひそひそ声が大音量となって襲いかかった。
 喚き散らすようなその声は、しかし何を話しているのかが全く聞き取ることが出来ない。
 彼は逃げ出したい衝動に駆られたが、それよりも生真面目さが勝った。
 どうにか当日の工数をこなすと、彼は更衣室へ一目散に逃げ込んだ。
 急いで服を着替え、事務所を通過して外へ出ようとする。
 しかし彼はまた見てしまった。
 事務所内にある社長の机上に、光るシルエットがあった。
 工場内で見た子供の姿とは違う、しかし人間とも微妙に異なる異質な影。
 家蔵さんは事務所の鍵を閉めると、家へと逃げ帰った。

 翌日、上司に説明したが、全く信じてもらえなかった。
 その後も頻繁に同じような出来事が続いた。
 しかも、夜勤の時だけではなく、日勤の時にもそれらは現れ始めた。
 周囲には彼の話を信じてくれるものは誰一人としていなかった。
 彼は耐えて働き続けてきたが、限界だった。
 三年後、彼は退職した。

(超-1 2008/「夜勤中」より)


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