【リライト】見

2008年04月21日 03:41

 五年生の二学期の終わり、高木君のクラスに転校生がやってきた。
 村田というその少年は、「都会もの」のわりには、片田舎の級友達とすぐに打ち解け、人気者になった。
 それには理由があった。
 彼は見えるのだそうだ。

「あ、今、廊下を女の子の霊が通ったよ」
「昨日、体育館のトイレの鏡に映る、落ち武者の霊を見たよ。
 でも、悪い霊じゃないから怖くないよ」

 そんな彼の言動は、当時の子供達にとっては『とくべつなもの』だった。
 畏怖と尊敬の入り交じった視線が村田君を囲んだ。
 そんな中で彼が意味ありげに窓を見ると、子供達はどきっとする。
 それが怖くて、楽しくて仕方がなかったのだ。

「あそこの鉄棒の横、木の下に二人いるね。親子かな」
 三学期の終わり頃、放課後の教室で村田君が呟いた。
 窓枠に腰掛けた体勢で、村田君は窓の外に向けた視線を動かさない。
「どこどこ?」
「どんな親子?」
「やっぱこの学校、昔は墓地だったのかな?」
 教室に残っていた五〜六人の級友達は、口々にそう言いながら、鉄棒の方を見た。
 彼らには何も見えない。
「ああ、こっち歩いてくる。今、目が合ったせいかな」
 真剣な眼差しを窓の外に向けたまま、村田君が言った。

 パンッ。

 村田君の言葉に合わせたかのように、何かが割れたような音が教室内に響いた。
「大丈夫大丈夫、親子はもう消えたから」
 悲鳴を上げて怯える級友達に、村田君が言う。
 その言葉に重ねるかのように、再びパンパンと炸裂音が連続して響く。
「うわあっ!」
 ひとりの男子が大声を出し、黒板を指さした。

 黒板の前には、カーキ色の軍服を着た、浅黒い肌の男が立っていた。
 無精ひげの伸びた顔は、まっすぐ村田君を見つめている。

 級友達はみな、その男を見た。
 あまりの出来事に、彼らは押し黙って硬直した。
「どうしたの? 黒板が何か変?」
 ただひとり村田君だけが、いつものすました表情で黒板を見ている。
 彼だけ、見えていない。
「村田君、見えないの?」
 高木君が震えた声で聞いた。
「何が?」

 そう言った村田君の体が、窓の外にもたれかかるように傾いた。
 そしてすました顔のまま、窓の外に消えた。

 彼らの教室は三階にあった。

 慌てて窓に駆け寄った級友達は、眼下の花壇に横たわり、動かない村田君の姿を見た。
 高木君が職員室に駆け込もうと振り返った時、あの男の姿はなくなっていた。

 村田君は即死だった。

(超-1 2008/「見」より)


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