【リライト】女の子の秘密

2008年04月21日 03:46

「冬になるとさあ、見せたがりの痴漢っているじゃない」
 昼食を食べ終えてまったりしている時、不意にミチルが言った。
「あー、いるいる。コート着た奴でしょ。実際に見たことはないなあ」
 中学の頃に注意を促された記憶はあるけど、確かに見たことはない。
 見た、という話も聞いたことがない。テレビのコントで見た程度だ。
「うーん、会っても言いにくいかもね、中学の頃なんかは。だって、思春期だもん」
 大袈裟に言うヨウコを皆でからかった。

「あたし見たことあるよ、露出狂」
 三時の休憩の時、不意にサトミが言った。
 普段そういう冗談を言わない彼女の発言に、居合わせた仲間は興味津々だった。

 中三の時、彼女は塾からの帰り道を歩いていた。
 途中、駅前に細く薄暗い路地があった。
 突然、物陰から出てきた男が、彼女の前に立ちふさがった。
 男は彼女を見つめながら、黒っぽいトレンチコートの前を開いた。
 彼女は、その中をまじまじと見つめた。
 その中には、あるはずの体がなかった。
 コートの裏地が見えているだけだった。

「って、そっち系の話かいっ!」
 誰かがすかさずつっこむ。
 途端に笑い声がはじける。
 そんな中、私は笑いながら、何かが心の隅に引っかかって仕方がなかった。

「さっきのサトミの話だけどさ」
 帰り道、ヨウコがぽつりと言ったが、何故か口ごもった。
 他の仲間は駅までのバスに乗り、近場に住む私とヨウコとサトミのうち、家が近いヨウコと帰る途中だった。
 沈黙が重い。
 でも、何かが引っかかって、その続きを聞くのが憚られた。
「私も……見たこと、あるよ。小六の頃」
 彼女が言った。
 それで思い出した。
 私も見ている。

 母へ送り迎えの電話をかけ終えて、電話ボックスを出ようとした時。
 目の前に、男が立っていた。
 ドアのすぐ前に立つ男の為に、外に出ることが出来ない。
 怯える私を見ながら、男はコートの前を開いた。
 そこには、あるべき体がない。
 その代わりに、コートの裏地、背の縫い代の部分が三センチほどほつれているのが見えた。

 私もサトミもヨウコも、小さい頃から同じ地区に住んでいる。
 もちろん、あの路地のことは三人とも知っている。

「い、以外にさ、みんな実は、見たことがあるのかも……」
 そう言い終えた私の顔を、ヨウコが探るような目で見ていた。
「うん、そ、そうだね、きっと、忘れてるだけなのかもね……」
 ヨウコは納得したように頷きながら答えた。

(超-1 2008/「女の子の秘密」より)


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