【リライト】迷走

2008年04月21日 03:55

 山口さんは、いつものように奥さんを乗せ、大型ショッピングセンターに買い物に出掛けた。
 そこへ向かうには高速を小一時間飛ばし、県道に降りて数分の距離。
 奥さんはそこに行った事がない。
 車にはナビは付いていない。
 一度行った事がある山口さん、彼が問題だった。

 一時間後、インターを降りて間もなく。
「そうだこの道だよ、間違いない。見覚えがある」
 また始まった、と奥さんは思った。
「見覚えって、何が目印なのよ」
「あのセブンイレブンだよ。見た事ある」
 もう、ツッコミを入れる気にもならない。
 コンビニはあちこちに点在しているし、佇まいだって似たり寄ったりだ。
 だいたい、その細かな違いを憶えているようなら、迷うはずがない。

 さらに十分後。
「今度こそ間違いない。ここを右折だ。
 絶対だって。あのドコモショップ、見覚えがあるもん」
 だから、ドコモショップはあちこちに……。

 結局、本格的に迷った二人は、車を止めて地図を広げた。
 が、地図を見てわかるようなら救いがある。
 二人とも、地図のどこが現在地点か、さっぱりわからなかった。
 地図を畳み、うろうろと車を走らせる。
「お、今度こそ間違いない。知ってる道だ」
 聞き飽きた台詞に呆れながら、奥さんがあたりを見回すと。
 あれ、この道、知ってる。
 ここを右折すると、右にツタヤがあって、スーパーがあって、魚よしが……。
 ええっ?
 魚よしの向こうに、見慣れた我が家の茶色い屋根が見えた。
 インターを降りてから、四十分弱しか経過していなかった。

 二人が家を出て、高速を飛ばしてインターを降りるまでに一時間。
 その後、一般道をうろうろまごまごしながら、家に辿り着くまでに四十分弱。
 直線距離を飛ばす高速と違い、一般道での帰路は、一時間半、または二時間近くかかるはず。
 しかも、車は右折しかしていない。
 ぐるっとまわって元の方向に戻る、という訳にはいかないはず。

 ただ、それが初めての事ではないと、山口さんは言う。
 迷うのも日常茶飯事なら、なんだかんだで家に辿り着くのも日常茶飯事だった。
 そのせいか、妙な自信を持ってしまっているらしい。
 奥さんとしては、その変な自信をとっとと捨ててもらって、ナビを購入して欲しいに違いない。

(超-1 2008/「迷走」より)


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