2008年04月21日 04:02
ある日、温子さんは自転車に乗っている時に転倒し、足を痛めた。
捻った程度だと思っていた足首は、見事に腫れ上がってしまった。
その足を引きずりながら病院へ行くと、靱帯を痛めている事が判明した。
「ああ、ひと月はかかるね、これ」
足は即座にギプスで固定され、念のために検査入院をする事になった。
彼女の入った病室は四人部屋だった。
同室の患者達に挨拶を済ませ、右の窓際のベッドに戻り、そこに座り込んだ。
その時、自分を見つめる、ねっとりとした視線に気付いた。
病室内を見回しても、他の患者は本を読んだりテレビを見たりしていて、誰も彼女の事など見ていない。
間もなく、彼女の母が見舞いに来た時にも、その視線は続いていた。
やがて消灯時間になり、温子さんは読んでいた漫画を閉じ、ベッドに横になり、天井を見上げた。
そこに、いた。
白いネグリジェを着た、髪の長い女。
それが、蜘蛛のように四肢を広げ、天井に爪を立てて貼り付いている。
乱れた髪の奥に見える顔は鮮血に染まり、断末魔の表情を浮かべている。
大きく見開かれ血走った瞳は、まっすぐ温子さんを見下ろしていた。
「ぎゃっ!」
思わず妙な悲鳴を上げて、温子さんは逃げようとした。
しかし、彼女は足にギプスをしているのを忘れていた。
バランスを崩して激しく転倒し、左肘をしたたか打ち付けた。
「どうしたの?」
同室のおばさん達が駆け寄り、彼女を助け起こそうとした。
その声に応えて起き上がろうと上を見た。
やはり、いる。
彼女は気を失った。
左肘を捻挫し、温子さんの入院期間は延びた。
彼女は病室を変えてくれるように懇願したが、聞き入れてもらえなかった。
彼女以外、誰一人としてあの女が見えなかったのだ。
はじめこそ生きた心地がしなかった。
しかし、女はそこに貼り付き彼女を見下ろすだけで、それ以上の動きを見せない。
温子さんは女に見下ろされながら、毎晩眠りについた。
その後は何事もなく、一週間後、彼女は無事退院した。
(超-1 2008/「五人部屋」より)
捻った程度だと思っていた足首は、見事に腫れ上がってしまった。
その足を引きずりながら病院へ行くと、靱帯を痛めている事が判明した。
「ああ、ひと月はかかるね、これ」
足は即座にギプスで固定され、念のために検査入院をする事になった。
彼女の入った病室は四人部屋だった。
同室の患者達に挨拶を済ませ、右の窓際のベッドに戻り、そこに座り込んだ。
その時、自分を見つめる、ねっとりとした視線に気付いた。
病室内を見回しても、他の患者は本を読んだりテレビを見たりしていて、誰も彼女の事など見ていない。
間もなく、彼女の母が見舞いに来た時にも、その視線は続いていた。
やがて消灯時間になり、温子さんは読んでいた漫画を閉じ、ベッドに横になり、天井を見上げた。
そこに、いた。
白いネグリジェを着た、髪の長い女。
それが、蜘蛛のように四肢を広げ、天井に爪を立てて貼り付いている。
乱れた髪の奥に見える顔は鮮血に染まり、断末魔の表情を浮かべている。
大きく見開かれ血走った瞳は、まっすぐ温子さんを見下ろしていた。
「ぎゃっ!」
思わず妙な悲鳴を上げて、温子さんは逃げようとした。
しかし、彼女は足にギプスをしているのを忘れていた。
バランスを崩して激しく転倒し、左肘をしたたか打ち付けた。
「どうしたの?」
同室のおばさん達が駆け寄り、彼女を助け起こそうとした。
その声に応えて起き上がろうと上を見た。
やはり、いる。
彼女は気を失った。
左肘を捻挫し、温子さんの入院期間は延びた。
彼女は病室を変えてくれるように懇願したが、聞き入れてもらえなかった。
彼女以外、誰一人としてあの女が見えなかったのだ。
はじめこそ生きた心地がしなかった。
しかし、女はそこに貼り付き彼女を見下ろすだけで、それ以上の動きを見せない。
温子さんは女に見下ろされながら、毎晩眠りについた。
その後は何事もなく、一週間後、彼女は無事退院した。
(超-1 2008/「五人部屋」より)




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