【リライト】サイドミラー

2008年04月21日 04:07

 その夜、谷村さんは仕事を終え、高速道路を山梨から東京方面に向けて走っていた。
 時刻は午前零時を過ぎている。
 間もなく彼女を乗せた車は、あるトンネル付近にさしかかった。
 そこは出るらしい。
 トンネル内で、リアガラスに小さな女の子が貼り付くのだという。
 同僚によくからかわれたが、そんなものは一度も見た事がなく、一笑に付していた。

 トンネルに入る直前、サイドミラーを確認した谷村さんは、思わずハンドル操作を誤りそうになった。
 サイドミラーいっぱいに、男の顔があった。
 四十代くらいの、青白い顔をした男。
 ミラーの範囲内に、そんな姿はどこにもない。
 あったとしても、高速を走る車と併走出来る生身の男がいるはずがない。
 トンネル内に入ってからも、その顔は変わらずサイドミラーに映り込んでいた。
 無表情の男はミラー越しに、谷村さんを見つめていた。

 やがて、永遠に続くかとさえ思えたトンネルが、ようやく終わった。
 恐る恐るサイドミラーを見ると、男の顔は消えていた。

 その後も谷村さんは、仕事の帰りに同じルートを通ったが、顔を見たのはその一度きりだった。

(超-1 2008/「幽霊トンネル」より改題)

※せんべい猫より
 この話の原題は「幽霊トンネル」という題でしたが、正統派怪談の場合、「幽霊」という単語を極力使わない方が話の信憑性が増すと思い、怪異の現れた「サイドミラー」に題を改めさせていただきました。
 改題についてご理解いただければと思います。


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