【リライト】罪過

2008年04月22日 23:26

「様々な事情を考慮して、全て仮名にしてある……か」
 実話怪談本のページを捲りながら、天野さんが呟いた。
「まあ、俺の場合、名前を出されるのは、違う意味でまずいかな」

 彼には前科があった。
 詐欺に近い形で多くの人から金を集めた。
 人から恨まれるだけでなく、身内や友人との縁も切れた。
「金は返さなくていいから、目の前で腹を切れ」
 そう言われて、目の前に包丁を投げ出されたこともあった。
 服役を終えてからも、彼は誰かに追われているような気がして仕方がなかった。
 彼はそれから逃れるように、古いアパートの二階で息を潜める生活をはじめた。

 梅雨の季節になり、窓の外には陰鬱とした暗雲が広がり、雨が降り続けていた。
 その日出掛ける用事があった天野さんは、カーテンを開けて窓の外を覗き、気持ちが沈んだ。
 底の見えない閉塞感。
 溜息に曇った窓に、指で『つかれた』と書いた。

『フ ザ ケ ン ナ』

 耳元で男の怒鳴り声がした。
 それと同時に、背後で何かが割れる音がした。
 振り返ると、彼がいつも使っている茶碗が、真っ二つに割れていた。

(超-1 2008/「罪過」より)


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