【リライト】追い剥ぎ追い

2008年04月22日 23:38

 日野さんが子供の頃というと、もう六十年以上昔になる。
 彼は田舎の小さな村に住んでおり、あたりはうっそうとした雑木林と荒れ地が広がっていた。
 日が落ちると、あたりは鼻を摘まれてもわからないほど暗くなり、その頃合いを狙った不埒者……追い剥ぎが時折出現した。

 その夜、松田さんという三十代の奥さんが、そのくらい道をひとりで歩いていた。
 早く帰宅する予定が、電車に乗り遅れてしまったのだ。
 その彼女に向かって躍りかかる、ふたつの人影があった。
 待ち伏せていた追い剥ぎだ。
 彼女は一目散に逃げ出し、雑木林の中をがむしゃらに走った。
 しかしその後ろを、ふたりの男は追いかけてくる。
 彼女が憶えているのはそこまでだった。

 しばらくして松田さんは、心配して迎えに来た家族に雑木林の中で発見された。
 追い剥ぎ達の姿はなく、奪われた物もない。
 その後、駐在さんからこんな話を聞いた。
 追い剥ぎ達が自首してきたというのだ。
 しかもその様子が尋常ではなかったらしい。

 あの夜、追い剥ぎ達は雑木林に逃げ込む松田さんを追いかけた。
 追い詰められた松田さんは、近くの木によじ登って難を逃れようとしていた。 
 しかし追い剥ぎ達は、木にしがみつく松田さんを引きずり下ろそうとした。
 その度に大声を上げて激しく抵抗され、なかなかうまくいかない。
 何度も松田さんを見上げ、飛びかかる。
 しばらく攻防が続いたが、不意に松田さんが追い剥ぎを見下ろした。
 その首が、真後ろを向いている。
 そして、彼らに牙をむき、吠えた。
 それはもはや人間ではなかった。
 追い剥ぎ達は松田さんだったモノから手を離し、地面に落ちた。
 その彼らの頭上から、それが襲いかかってくる。
 その頭部だけが。
 彼らは逃げ出した。
 しかし、それは執拗に彼らを追い回した。
 狂ったように吠え、鞠のように大きく跳ねながら。

 やがて、駅に逃げ込んだふたりは駅員に事の次第を話し、保護を求めたのだという。
 間もなく駐在さんがその場に到着すると、正気を失い騒ぐふたりの姿があった。
 首だけの化け物が、ヤマイヌが、俺達を喰い殺そうとした、と。

(超-1 2008/「追い剥ぎ追い」より)


コメント

  1. 山際 みさき | URL | -

    この話は

    自分でもどう書いたらいいのかわからず、結局納得のいかないまま投稿してしまったのですが。
    せんべい猫殿もお困りになられた様ですね。

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