【リライト】検証

2008年04月24日 23:27

 その夜、杉本さんは奥さんを乗せて、小坪トンネルにドライブに行った。
 もちろん単なる観光ではない。
 そもそも、小坪トンネル自体は観光スポットでも何でもない。
 あまりにも有名な心霊スポットなのだ。

 俗に言う『小坪トンネル』は、新旧六本のトンネルの内、逗子方面にある『小坪隧道』を指す。
 いつから心霊スポットとして噂されるようになったのかは定かではない。
 ただ、タレントのキャシー中島さんが語ったエピソードで火が付いたのは確かだ。
 このトンネルに纏わる噂は、現在あちこちで聞かれるトンネル怪談のバリエーション全てと言っても過言ではないほど、多岐に分かれている。
 フロントガラスの手、血の雨、天井に張り付く女、追いすがる女、カーラジオからの声、正気を失うドライバー、等々。
 中でも肝試しとして有名なのが、トンネルの中程で車を止め、クラクションを二度鳴らすと出る、という噂だった。

 杉本さん夫婦は一度、昼間にトンネル見物に来ている。
 しかし何もなく、やはり夜に来ないと雰囲気がない、ということで出直してきたのだ。
 トンネルに到着した夫妻は慎重に辺りをうかがい、その中程に車を止めた。
 そしてクラクションを鳴らそうとした時。

 コン、コン。

 フロントガラスの真ん中程から音がした。
 まるで、見えない誰かがガラスをノックしたような。
 スポット巡りはあちこち行ったが、杉本さん夫婦にとってはそれが初めての体験だった。
 びっくりした夫婦は、大慌てでその場を後にした。

 その翌日の深夜、杉本さん夫婦はまたも小坪トンネルに来ていた。
 昨晩の出来事は偶然、小石が当たっただけかも知れない。
 トンネルに到着した夫妻は慎重に辺りをうかがい、その中程に車を止めた。
 そしていよいよ、クラクションを鳴らす。

 プッ、プッ。

 鳴った。
 が、彼はまだクラクションに触れていない。
 しかし現に、クラクションは綺麗に二度鳴っている。
 びっくりした夫婦は、大慌てでその場を後にした。

 その翌日の深夜、杉本さんは出発の準備を整えていた。
 もちろん目的地は小坪トンネル。
 昨晩の出来事は偶然、クラクションに手が触れたのかも知れない。
 奥さんと一緒に車に乗り込み、エンジンを掛けようとした時。

 バンッ!

 ガラスを叩く大きな音がした。
 見ると、小さな手形がくっきりと、フロントガラスに浮かび上がっている。
 もちろん、さっきまでそんな手形はなかった。

 結局、夫妻は小坪トンネルに行くのを断念した。

(超-1 2008/「検証」より)


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