【リライト】トンネル

2008年04月24日 23:32

 その日、矢部君は友人の石本君を乗せて、横須賀の外れにある長瀬トンネルに向かっていた。
 彼らはちょくちょく遊びに出掛けついでに、観光スポットを巡る日々を送っていた。
 小坪トンネル、切り通し、観音崎、鎌倉八幡通りのファミレスの隣にある廃屋敷、野比の精神病院跡、等々。
 しかし、名の知れたスポットは殆ど制覇してしまった。
 そんな時、石本君が長瀬トンネルの話を矢部君にしたのだ。

 ペリー来航の地・浦賀と久里浜を結ぶ道路の途中に、長瀬トンネルというのがある。
 五年ほど前に立派なトンネルがすぐそばに開通し、車一台ほどの幅しかない旧トンネルは殆ど使われなくなっている。
 その旧トンネルの雰囲気が、いかにも、という感じなのだ。
 細い道を辿ると、枯れ葉と水たまりが出来放題の入り口が見えてくる。
 その外壁と内部は山からしたたり落ちる水と苔で薄汚れ、カビ臭い臭いが充満している。

 ただし、このトンネルに関する噂話はまったくない。
 とにかく、雰囲気だけがいいのだ。

 二人とも住み慣れた町のスポット候補。何か体験したら伝説の始まりかも知れない。
 そうなると、これまでと違い、ちゃんと検証しないと行けない。
 トンネル怪談の検証方法といえば、中程でエンジンを止めてクラクションを二度鳴らす、というパターンがある。
 幸い、半ば廃れたトンネルなので、止めていても後続車はまず来ない。
 矢部君はエンジンを止め、クラクションを鳴らした。

 何も起きない。

「やっぱ何も起きないかぁ」
「んじゃ行きますか」
 矢部君はキーを回した。
 しかし、エンジンがかからない。
 もう一度、ゆっくりとキーを確実にめいっぱい、右まで回す。
 やっぱりかからない。
 その時、足下がひんやりとした。
 クーラーはかかっていない。
 まさか。
 でも、ここで認めたら。

「あれー、エンジンかかんないよー」
 彼はわざと巫山戯た口調で言った。
「うわー、こわいー」
 助手席の石本君も笑いながら後に続く。
 彼には何も感じないらしい。
 無理矢理笑顔を作りながら、キーを回す。
 ようやくエンジンが掛かり、車はそろそろとトンネルから抜け出した。

 後日、石本君がこんなことを言ってきた。
「何か、怖い話のネタはない?」
 矢部君は彼に、軽く殺意を憶えた。

(超-1 2008/「トンネル」より)


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