【リライト】攻撃

2008年04月27日 23:40

 ある日の朝、高山さんは上司に呼ばれた。
 昼過ぎに運ばれてくる車を査定して欲しいのだという。
 事故車の査定は業務なので、断るはずもない。
 にも関わらず、わざわざ上司が念を押すのには訳がある。

 午後一時過ぎにレッカーで運ばれてきた車を見て、高山さんは溜息をついた。
 その車は、ガラスやドアのあらゆる隙間がガムテープで塞がれていた。
 近づくと、腐臭と排気ガスの入り交じった、独特の不快な臭いが鼻をつく。
 運転席のシートには、人の形をした黒いシミが残っている。
「ざっと外装だけ見て、傷の場所だけ控えておいて。どうせ値段は付かないから」
 顔をしかめる彼に、上司は暢気に声を掛けた。
 ぶつぶつ文句を言いながら、彼は書類を取りに事務所に戻ろうとした。
 その時、背後に尋常ではない気配を感じた。

 振り返ると、彼から少し離れた場所に、あの黒いシミが立っていた。

 そのシミは事務所に入った時も、車の査定中も、彼に付き纏った。
 仕事を終え、帰宅してからも、彼の背後にあのシミがいる。
 しかもその距離が狭まり、首筋に息遣いが伝わってくる。
 彼はシミを意識しないようにして、無理矢理布団に潜り込んだ。

 深夜、彼は異臭に目を覚ました。
 部屋中にガスが充満しているようだ。
 しかし報知器は作動しておらず、キッチンや風呂場の元栓にも異常はない。
 気のせいか、と思い向きを変えた時、目の前にあのシミがいた。
 恐怖に固まる彼の目の前で、シミは左右に揺れはじめ、やがて小刻みな前後の揺れが加わる。
 その様は、まるで痙攣しているようだ。
 痙攣がピークに達した次の瞬間、彼の腹部に衝撃が走った。
 薄れゆく意識の中、彼は自分の腹部に深くめり込む、毛深い男の右腕を見た。

 翌朝意識を取り戻した時には、シミはいなくなっていた。
 腹部に残るボディーブローのダメージが、夢でないことを彼に告げていた。
 支度して出社すると、あの車のボンネットの上に、あのシミが立っている。
 怯えながら様子を観察すると、シミは仁王立ちのまま微動だにしない。
 夕方になりスクラップ業者がやってくると、あの車を回収していった。
 ボンネットに、あのシミを乗せたまま。

(超-1 2008/「仕事上・・・」より改題)

※せんべい猫より
 この話の原題は「仕事上・・・」という題でしたが、本編と余り深い関わりがなく、違和感を感じました。
 リライトにあたり、現象そのもの(ボディブロー)を題名にするわけにも行かないので、それとなく臭わせる「攻撃」という題にしてみました。
(「シミ」というのも考えたのですが、すでに3つありますし……)
 改題についてご理解いただければと思います。


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