【リライト】永遠の一瞬

2008年04月27日 23:50

 風間さんは小学生の頃、家族で遠方に出掛ける機会があった。
 父の運転で長距離を移動するのは初めてで、行きはとても楽しかったのだが、帰路はただ長くて退屈なだけだった。
 おまけに外には小雨がぱらつき、雲の広がる車窓の風景は寂しげ。
 すっかり退屈した風間さんは後部座席に寝転がっていた。
 しかししばらくして、妙なことに気付いた。

 車内がとても静かになっていた。
 さっきまで話をしていた両親が黙り込んでいる。
 カーラジオから流れていた交通情報も、今は聞こえてこない。
 エンジン音も、タイヤが路面を蹴る音も、窓の隙間から吹き込む風の音も、全てが消え失せていた。

 彼は起き上がり、座席の隙間から両親の顔を覗き込んだ。
 両親は全く動かない。それどころか、瞬きすらしていない。
 彼は両親の体を揺さぶったが、びくともせず、その体はブロンズ像のように硬かった。
 車の速度計は、九十キロを指した状態で止まっている。
 他の車も、路面に貼り付いたように動かない。
 さっきまで降り注いでいた雨粒が、空中で静止していた。
 彼は恐る恐る窓の隙間から手を伸ばし、そのうちのひとつに触れてみた。
 それは、柔らかさも冷たさもなく、小石のような感触だった。

 彼は後部座席に横になり、車の天井を見上げながら途方に暮れた。
 このままだったらどうしよう。
 そう思った瞬間。
 両親が再びおしゃべりをはじめ、カーラジオからは女性アナウンサーの声が響き、雨粒が窓に砕けて流れてゆく。
 唐突に、全てが元に戻っていた。

 風間さんがそんな体験をしたのは、その時だけ。
 その後、困ったことがある度に念じたのだが、時が再び止まることはなかった。

(超-1 2008/「ワールド」より改題)

※せんべい猫より
 この話の原題は「ワールド」という題でしたが、この題は「ジョジョの奇妙な冒険」という漫画の登場人物・ディオ=ブランドーの使うスタンド(特殊能力)「ザ・ワールド」の時を止める能力とからめた、いわゆる一部の読者サービスと思われ、一部読者に不評でした。
 リライトにあたり、本編の出来事をネタバレしない程度に抽象的に表現するフレーズを探し、「永遠の一瞬」と付けてみました。
 改題についてご理解いただければと思います。


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