2008年04月28日 23:54
真夏の深夜、江藤君は夜食を買う為、原付バイクに乗って細い路地を走っていた。
その薄暗く細い路地の途中に、縦長の空き地があった。
道路に面した幅は十メートル弱、奥行きが三十メートル弱くらいだろうか。
その空き地は誰も手入れするものがいないのか、腰の高さくらいまでの雑草が伸び放題になっている。
彼はいつもその場所を通るたび、民家や神社が整然と並ぶこの界隈と、廃れたその空き地のギャップが気になっていた。
コンビニで買い出しを済ませた帰り道、再びあの路地を走る。
行きとは違い、空き地の前に遮蔽物となる高い建物がない為、遠くからでもあの敷地が視界に入る。
江藤君は、遠くに見える空き地の様子がいつもと違うことに気付いた。
来た時は空き地のままだったのに、今は建物のシルエットがそこにある。
そして、そこから灯りが漏れている。
彼はバイクの速度を落とし、ゆっくりと近づいた。
そのシルエットは平屋建てで古い佇まいの家屋で、空き地の敷地面積いっぱいに建てられている。
窓から障子越しに漏れる灯りは、ゆらゆらと蝋燭の明かりのように揺らめいている。
江藤君はさらにバイクの速度を落とし、あの家の前にさしかかった。
その前は緩やかなカーブになっている為、彼は一度、前方確認の為にあの家から視線をそらした。
再び視線を戻した時、そこに人影がふたつ現れていた。
右側の人影が太い腕を伸ばし、左側の細い人影の首を掴んでいる。
髪を後ろに結った女性と思われる左側の人影は、それを振りほどこうともがくように動いている。
しかし、体格のいい男と思われる人影はそれに動じず、徐々に力を強めているのか、肩口が震えていた。
間もなく、太い腕にかけられていた女のか細い腕が、力なく垂れ下がった。
そして、女の影が激しく痙攣し、それを押さえつけるように男の影がのしかかっていく。
目の前で繰り広げられる凶行に、恐怖を覚えた江藤君はバイクのアクセルを絞って逃げ出した。
家に着いた彼は、買ってきた弁当を無造作に投げ出すと、布団に潜った。
翌朝になって目が覚めても、あの風景が彼の頭から離れなかった。
どうにか落ち着いてはいるものの、そのままにも出来ない。
彼はバイクに乗ると、あの空き地へ向かった。
しかし、そこには雑草が生い茂るばかりで、家が建っていた痕跡も、凶行の生々しい残留物も残っていなかった。
それからも、彼は大学を卒業するまでの間、その道を何度も通ることがあった。
しかし、二度とあの家を見ることはなかった。
(超-1 2008/「投影」より)
その薄暗く細い路地の途中に、縦長の空き地があった。
道路に面した幅は十メートル弱、奥行きが三十メートル弱くらいだろうか。
その空き地は誰も手入れするものがいないのか、腰の高さくらいまでの雑草が伸び放題になっている。
彼はいつもその場所を通るたび、民家や神社が整然と並ぶこの界隈と、廃れたその空き地のギャップが気になっていた。
コンビニで買い出しを済ませた帰り道、再びあの路地を走る。
行きとは違い、空き地の前に遮蔽物となる高い建物がない為、遠くからでもあの敷地が視界に入る。
江藤君は、遠くに見える空き地の様子がいつもと違うことに気付いた。
来た時は空き地のままだったのに、今は建物のシルエットがそこにある。
そして、そこから灯りが漏れている。
彼はバイクの速度を落とし、ゆっくりと近づいた。
そのシルエットは平屋建てで古い佇まいの家屋で、空き地の敷地面積いっぱいに建てられている。
窓から障子越しに漏れる灯りは、ゆらゆらと蝋燭の明かりのように揺らめいている。
江藤君はさらにバイクの速度を落とし、あの家の前にさしかかった。
その前は緩やかなカーブになっている為、彼は一度、前方確認の為にあの家から視線をそらした。
再び視線を戻した時、そこに人影がふたつ現れていた。
右側の人影が太い腕を伸ばし、左側の細い人影の首を掴んでいる。
髪を後ろに結った女性と思われる左側の人影は、それを振りほどこうともがくように動いている。
しかし、体格のいい男と思われる人影はそれに動じず、徐々に力を強めているのか、肩口が震えていた。
間もなく、太い腕にかけられていた女のか細い腕が、力なく垂れ下がった。
そして、女の影が激しく痙攣し、それを押さえつけるように男の影がのしかかっていく。
目の前で繰り広げられる凶行に、恐怖を覚えた江藤君はバイクのアクセルを絞って逃げ出した。
家に着いた彼は、買ってきた弁当を無造作に投げ出すと、布団に潜った。
翌朝になって目が覚めても、あの風景が彼の頭から離れなかった。
どうにか落ち着いてはいるものの、そのままにも出来ない。
彼はバイクに乗ると、あの空き地へ向かった。
しかし、そこには雑草が生い茂るばかりで、家が建っていた痕跡も、凶行の生々しい残留物も残っていなかった。
それからも、彼は大学を卒業するまでの間、その道を何度も通ることがあった。
しかし、二度とあの家を見ることはなかった。
(超-1 2008/「投影」より)






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