2008年04月28日 23:56
ブンさんは一時期、新宿駅西口通路に住んでいた。
壁に沿って建ち並ぶ段ボールハウスのひとつに寝転がり、ハウス入り口の隙間から行き交う人々の足元を眺める。
その足のひとつひとつから、その人の生活ぶりを推理するのが、彼の日課だった。
ある日、ブンさんはいつものように寝転がり観察をしていると、その目の前を老婆の顔が横切った。
ブンさんは驚いたが、何かの見間違いか、たまたま屈んだだけなのだろう、と思い、気にしなかった。
しかし次の日も、また次の日も、彼の前を老婆の顔が横切るに至って、彼はそれが尋常ではないことに気付いた。
老婆は必ず同じ時刻に現れる。
そして、同じ女の足のあとに続いているようだった。
その老婆を見かけるようになってから四日目、ブンさんはその時刻を待った。
そして老婆の顔が見えた瞬間、ハウスから出た。
そして彼は、はっきりと見てしまった。
薄汚れたパジャマを着た老婆が、スーツ姿の女の左足にしがみついていた。
女は何事もないかのように、老婆を引きずりながら颯爽と歩いている。
それだけではない。
女の右足には、四歳くらいの男の子が同じようにしがみついていた。
誰一人として、老婆と子供に気付かいていなかった。
その日を最後に、ブンさんは西口通路をあとにした。
数ヶ月後、ブンさんが何気なく拾った雑誌をめくっていると、あのスーツ姿の女の顔写真が載っていた。
そこには、祖母と長男を虐待、鬼畜の所業、などという煽り文句が踊っていた。
「水子はさ、よく母親の背中にしがみついて現れるっちゅうけど、あれはやっぱり、負んぶしてもらいたいからなんだろうな。
でも、幽霊ん中にゃ足元にすがりつくしかできない奴もいる。
俺にはさ、何だか、そいつらの気持ちが少しわかる気がするよ」
ブンさんはそう言い終えると、目を伏せた。
(超-1 2008/「足元にすがりつく幽霊」より改題)
※せんべい猫より
この話の原題は「足元にすがりつく幽霊」という題でしたが、ストレートすぎる為、シンプルでその先を臭わせる「足元に」と題を改めさせていただきました。
改題についてご理解いただければと思います。
壁に沿って建ち並ぶ段ボールハウスのひとつに寝転がり、ハウス入り口の隙間から行き交う人々の足元を眺める。
その足のひとつひとつから、その人の生活ぶりを推理するのが、彼の日課だった。
ある日、ブンさんはいつものように寝転がり観察をしていると、その目の前を老婆の顔が横切った。
ブンさんは驚いたが、何かの見間違いか、たまたま屈んだだけなのだろう、と思い、気にしなかった。
しかし次の日も、また次の日も、彼の前を老婆の顔が横切るに至って、彼はそれが尋常ではないことに気付いた。
老婆は必ず同じ時刻に現れる。
そして、同じ女の足のあとに続いているようだった。
その老婆を見かけるようになってから四日目、ブンさんはその時刻を待った。
そして老婆の顔が見えた瞬間、ハウスから出た。
そして彼は、はっきりと見てしまった。
薄汚れたパジャマを着た老婆が、スーツ姿の女の左足にしがみついていた。
女は何事もないかのように、老婆を引きずりながら颯爽と歩いている。
それだけではない。
女の右足には、四歳くらいの男の子が同じようにしがみついていた。
誰一人として、老婆と子供に気付かいていなかった。
その日を最後に、ブンさんは西口通路をあとにした。
数ヶ月後、ブンさんが何気なく拾った雑誌をめくっていると、あのスーツ姿の女の顔写真が載っていた。
そこには、祖母と長男を虐待、鬼畜の所業、などという煽り文句が踊っていた。
「水子はさ、よく母親の背中にしがみついて現れるっちゅうけど、あれはやっぱり、負んぶしてもらいたいからなんだろうな。
でも、幽霊ん中にゃ足元にすがりつくしかできない奴もいる。
俺にはさ、何だか、そいつらの気持ちが少しわかる気がするよ」
ブンさんはそう言い終えると、目を伏せた。
(超-1 2008/「足元にすがりつく幽霊」より改題)
※せんべい猫より
この話の原題は「足元にすがりつく幽霊」という題でしたが、ストレートすぎる為、シンプルでその先を臭わせる「足元に」と題を改めさせていただきました。
改題についてご理解いただければと思います。






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