【リライト】デェジョブ

2008年04月28日 23:59

 塩見さんのお爺さんが若い頃、新しく畑を開くという知人に頼まれ、牛を一頭連れて手伝いに出掛けた。
 一日中、牛と一緒に畑起こしの作業を手伝い、作物や煙草、手製のにごり酒などをお礼にもらうと、それを牛の背に乗せて家路についた。
 家路と言っても道らしい道はなく、深い山間に続く獣道のような道を、夕日を背に歩いていた。

 しかし、日が暮れ始めても、一向に家に辿り着かない。
 もうとっくに、集落が見える下り坂に差し掛かっていてもおかしくない筈である。
 それどころか、どうも同じ場所をぐるぐると回り続けているようだ。
(はぁて、こりゃ、狐か狸の仕業かいや?)
 お爺さんはそう思った。
(これはまず一服して、様子を見にゃならんな)
 牛の背に乗せてあったにごり酒を手に取ると、くいっと一口飲んだ。
 そして、ゆっくりあたりを見回す。

「デェジョブ」

 不意に、彼のすぐ後ろから声がした。
 そこにはお爺さんの牛がいる。
「おめ、今何か言うたか? それとも狐か?」
 そう言いながら、牛の額をペンペンと叩いた。
 牛はそれに答えるでもなく、引き綱を持つお爺さんを引っ張るように、のしのしと歩き始めた。
「ほぅ。おめぇが案内してくれるのかい」
 お爺さんは牛に任せてみることにした。
 牛の先導でしばらく歩いていると、やがて見慣れた下り坂に出ることが出来た。

「山で道に迷うやろ。そしたらな、馬や牛や、犬でもええ、先に立たせて歩かせるんや。
 そしたらな、必ず道を見つけてくれるんやで」
 お爺さんが生前、塩見さんに何度も語ってくれた話である。

(超-1 2008/「デェジョブ」より)


コメント

  1. 山際 みさき | URL | -

    "濁酒"は

    "にごりざけ"ではなく"どぶろく"のつもりで書きました。
    "にごりざけ"とも言う様ですが…

コメントの投稿

(コメント編集・削除に必要)
(管理者にだけ表示を許可する)

トラックバック

この記事のトラックバックURL
http://senbeineko.blog45.fc2.com/tb.php/261-be9369f5
この記事へのトラックバック


最新のエントリー