2008年04月29日 00:05
留美さんは、母方の伯母さんのことがとても大好きだった。
伯母さんもまた、留美さんを非常に可愛がっていた。
それには理由があった。
留美さんがまだ二歳の頃、母が新しい子供を身籠もったため、彼女は伯母さんの家に預けられた。
「その頃私、伯母さんのことを『ママ』って呼んでいたんだって」
優しい伯母さんに留美さんはすぐに打ち解け、とても懐いていた。
母が無事男の子を出産し、彼女を引き取ろうとした時、伯母さんと離れるのが嫌で大泣きしたのだという。
「うちのお母さん、ヤキモチ焼いちゃったみたい。
伯母さんに甘やかされてまるまる太って、しかも『ママ』って呼んで離れないもんだから。
お母さんったら、もう私の事は何処にも預けない、って笑いながら言ってたんだって」
それからもずっと、留美さんは伯母さんのことが好きだった。
それから月日が流れ、留美さんは大人になり、良縁に恵まれ、幸せな家庭生活を送っていた。
そんな時、伯母さんが病に倒れ、入院した。
癌だった。
病状は重く、伯母さんの身体を蝕んでいった。
足繁く見舞いに訪れていた留美さんは、日に日に窶れていく伯母さんの姿を見ることがとても辛く、悲しかった。
そして、回復を願う彼女の思いは届かず、伯母さんは明日をも知れぬ危険な状態に陥った。
留美さんは毎日、気が気でない日々を過ごしていた。
そんなある夜、彼女は夢を見た。
夢の中の彼女は、赤ん坊になっていた。
赤ん坊の彼女を伯母さんが抱いてくれていた。
「とにかく心地良かったの。ふわぁぁって。言葉では言い表せないくらい」
泣き続ける彼女を、伯母さんは温かく包み、優しい笑顔で見守る。
彼女に添えられた手のぬくもりも、胸から伝わる暖かさも、昔から変わらない。
でも、これで最後なんだ。
彼女には、伯母さんが最後の挨拶に来てくれたことがわかっていた。
それがわかっていたから、彼女は泣き続けた。
目が覚めても、夢の余韻は続いていた。
そして間もなく、伯母さんが亡くなったことを告げる電話が入った。
留美さんを心配そうに見守る旦那の聖史さんを見て、彼女は夢のことを話そうと思った。
しかし、彼女が話そうとした矢先、彼が口を開いた。
「昨夜……伯母さんが来た」
昨晩、彼は不意に目が覚めた。
隣に眠っている留美さんの顔を見ると、ぼろぼろと大粒の涙を流している。
そしてその枕元に、伯母さんが座っていた。
寂しそうな笑顔で留美さんを見つめていた伯母さんは、そっと聖史さんに視線を移した。
そしてそっと、白いハンカチを彼に差し出した。
しかし、彼はそれを受け取ることが出来なかった。
何故かはわからないが、それを受け取ってはいけないような気がしてしまったらしい。
それを悟ったのか、伯母さんは手を引くと、彼を見つめた。
「留美をこれからも、よろしくお願いします」
囁くような声でそう言うと、伯母さんは微かな笑みを浮かべ、ゆっくり消えていった。
「もしかしたら泣いている私の涙を拭いて欲しかったんじゃないかな。優しいおばさんだったし」
留美さんは笑顔でそう言った。その笑顔は、優しさと暖かさに満ちあふれていた。
何度も「本当に大好きだった」と連呼する彼女の気持ちは、これからもずっと変わらない。
(超-1 2008/「白いハンカチ」より)
伯母さんもまた、留美さんを非常に可愛がっていた。
それには理由があった。
留美さんがまだ二歳の頃、母が新しい子供を身籠もったため、彼女は伯母さんの家に預けられた。
「その頃私、伯母さんのことを『ママ』って呼んでいたんだって」
優しい伯母さんに留美さんはすぐに打ち解け、とても懐いていた。
母が無事男の子を出産し、彼女を引き取ろうとした時、伯母さんと離れるのが嫌で大泣きしたのだという。
「うちのお母さん、ヤキモチ焼いちゃったみたい。
伯母さんに甘やかされてまるまる太って、しかも『ママ』って呼んで離れないもんだから。
お母さんったら、もう私の事は何処にも預けない、って笑いながら言ってたんだって」
それからもずっと、留美さんは伯母さんのことが好きだった。
それから月日が流れ、留美さんは大人になり、良縁に恵まれ、幸せな家庭生活を送っていた。
そんな時、伯母さんが病に倒れ、入院した。
癌だった。
病状は重く、伯母さんの身体を蝕んでいった。
足繁く見舞いに訪れていた留美さんは、日に日に窶れていく伯母さんの姿を見ることがとても辛く、悲しかった。
そして、回復を願う彼女の思いは届かず、伯母さんは明日をも知れぬ危険な状態に陥った。
留美さんは毎日、気が気でない日々を過ごしていた。
そんなある夜、彼女は夢を見た。
夢の中の彼女は、赤ん坊になっていた。
赤ん坊の彼女を伯母さんが抱いてくれていた。
「とにかく心地良かったの。ふわぁぁって。言葉では言い表せないくらい」
泣き続ける彼女を、伯母さんは温かく包み、優しい笑顔で見守る。
彼女に添えられた手のぬくもりも、胸から伝わる暖かさも、昔から変わらない。
でも、これで最後なんだ。
彼女には、伯母さんが最後の挨拶に来てくれたことがわかっていた。
それがわかっていたから、彼女は泣き続けた。
目が覚めても、夢の余韻は続いていた。
そして間もなく、伯母さんが亡くなったことを告げる電話が入った。
留美さんを心配そうに見守る旦那の聖史さんを見て、彼女は夢のことを話そうと思った。
しかし、彼女が話そうとした矢先、彼が口を開いた。
「昨夜……伯母さんが来た」
昨晩、彼は不意に目が覚めた。
隣に眠っている留美さんの顔を見ると、ぼろぼろと大粒の涙を流している。
そしてその枕元に、伯母さんが座っていた。
寂しそうな笑顔で留美さんを見つめていた伯母さんは、そっと聖史さんに視線を移した。
そしてそっと、白いハンカチを彼に差し出した。
しかし、彼はそれを受け取ることが出来なかった。
何故かはわからないが、それを受け取ってはいけないような気がしてしまったらしい。
それを悟ったのか、伯母さんは手を引くと、彼を見つめた。
「留美をこれからも、よろしくお願いします」
囁くような声でそう言うと、伯母さんは微かな笑みを浮かべ、ゆっくり消えていった。
「もしかしたら泣いている私の涙を拭いて欲しかったんじゃないかな。優しいおばさんだったし」
留美さんは笑顔でそう言った。その笑顔は、優しさと暖かさに満ちあふれていた。
何度も「本当に大好きだった」と連呼する彼女の気持ちは、これからもずっと変わらない。
(超-1 2008/「白いハンカチ」より)




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