【リライト】あかずの間

2008年04月29日 00:06

 八重子さんは現在の診療所に勤める前、ある病院に勤務していた。
 そこは一般病棟以外にも介護病棟等が併設された、割と大きい病院だった。
 そしてそこに、ある噂が広まっていた。

 八重子さんが勤めだしてから間もなく、新しい病棟がこれまでの病棟のすぐ隣に建設された。
 その新病棟のとある廊下の前を通ると、呻き声が聞こえるというのだ。
 彼女自身は聞いたことがなかったのだが、その噂は瞬く間に関係者の間に広がった。
 ある時その話をしていると、ある看護師がこんな話をしてくれた。

 八重子さんがこの病院に来る一年ほど前、ある中年の女性看護師が、二十代半ばの若い男性看護師と不倫の中になった。
 県外から来た彼は、空いた病室を間借りして暮らしていたのだが、そこで二人は落ち合っていた。
 彼女には夫と三人の子供がいた。
 そしてその夫に、浮気の現場を押さえられた。
 修羅場の末、彼女は夫と離婚、男性看護師は県外の病院へ事実上の所払いとなることが決定した。
 彼の送別会を仲間内で執り行うことになっていたのだが、その会場に、彼は現れなかった。
 よりによって、あの部屋で彼女と再び密会をしていたのだ。
 そこへ、彼女の元夫が乱入し、男性看護師を包丁でめった刺しにし、病室は血の海となった。

 その部屋はすぐに閉鎖された。
 しかし時折、誰もいないはずのこの病室から、ナースコールがかかることが何度か遭ったという。

 その病室は、声が聞こえると噂される廊下の真裏に位置している。

(超-1 2008/「あかずの間」より)


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