【リライト】因縁

2008年04月29日 00:10

 八重子さんは、その夜も診療所の夜勤担当になった。
 雑務を終えた彼女が一階にある外来の詰所へ戻ると、同僚の看護師が雑談に花を咲かせている。
「今日は静かだね」
 彼女が声を掛けると、同僚はいたずらっぽく笑った。
「でも、今日は旧暦の十五日だし満月だから、何かあるかもね」
「まさかね」
 三人が笑っていると、内線が鳴った。
 番号を見ると、診療所入り口にあるインターホンからだった。
「人が、上から落ちてきたんです!」

 知らせてくれたのは、診療所の隣の家に住む人だった。
 その人の家と診療所の間の小道に向かうと、そこに人が倒れていた。
 それは二日前から三階の病室に入院していた、城間さんという六十代の男性だった。
 彼はすでに事切れていた。
 間もなく警察が到着し、八重子さん達は事情聴取を受けた。

 城間さんは末期癌患者だった。
 本人に対する告知は行われていたなかったが、周囲の不自然な対応や高価な薬を投与されることに、常々不審を抱いていたらしい。
 結局、城間さんの死は病気を苦にする自殺として処理された。

 ただ、八重子さんにはひとつだけ引っかかることがあった。
 その前日の夕方、城間さんを担当していた看護師が仕事を放り出し、病室から逃げてきたのだ。
 話を聞くと、病室にもの凄い腐敗臭が充満し、とても居続けることが出来なかったのだという。
 同じ頃、隣の家でも激しい腐敗臭が漂い、家人はその余りの酷さに嘔吐していたそうだ。
 それが城間さんの死を予兆するものなのかどうかは、八重子さんにもわからない。

 城間さんの死とそれに纏わる噂は、瞬く間に広まっていった。
 沖縄の小さな島で、互いの顔や素性は知れ渡っている。
 聞き耳を立てずとも、城間さんに関する噂は八重子さんの耳にも届いた。
 その中に、彼女も知らない話がいくつかあった。

 彼の娘もまた、自殺をしていた。
 当時娘さんは不倫をしていたが、その相手が事故死してしまい、後追い自殺を図ったのだ。
 それだけではない。
 その娘さんの甥もまた、若くして首吊り自殺でこの世を去っていた。
 彼はまだ幼い時に道ばたに捨て置かれ、発見された時には土を食べていたという、痛ましい過去も持っている。

 それらを結ぶ決定的な何かはわからない。
 しかし、八重子さんはそれらの出来事に因縁があるような気がしてならない。

(超-1 2008/「満月の夜には」より改題)

※せんべい猫より
 この話の原題は「満月の夜には」という題でしたが、本編と満月の関連性が薄く、ミスリードを発生していました。
 リライトにあたり、城間さんにまつわる「因縁」という直球の題に改めてみました。
 改題についてご理解いただければと思います。


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