【リライト】親譲り

2008年04月29日 00:11

「三つくらいの頃かなぁ、やけにハッキリ憶えていてね」

 幼い頃、義文さんは両親と川の字になって寝ていた。
 夜中に、彼はふと目を覚ました。
 彼が頭を向けている廊下の方から、ぼんやりと明かりが差し込んでいる。
 彼は起き上がり、廊下をぼーっと眺めていると、その目の前を、白いものがすーっと通り過ぎた。
 ひとつが通り過ぎると、少し間を開けて新しいものが現れ、通り過ぎてゆく。
 その姿は侍だったり兵隊だったりとバラバラだった。
 それらは、廊下の突き当たりにあるトイレの方に姿を消していく。
 ぼんやり光るその姿を目の当たりにしても、義文さんは不思議と怖さを感じなかった。

 やがて大きくなるにつれて、そういうものは見えなくなった。

「ただ、困ったことがひとつあるんだ」
 そう言って彼は溜息をついた。

 彼には三歳になる息子がいる。
 ある時、理由は忘れたが、彼は息子をこっぴどく叱りつけた。
 息子は玄関の方へ走っていくと、そこでわんわんと大泣きしている。
 可哀想とも思ったがしつけの為、ちゃんと謝ってくるまではと、義文さんは心を鬼にして放って置いた。
 すると、その泣き声がピタリと止んだ。
 不思議に思い、そっと玄関の方を覗くと、息子がポカンと口を開けたまま固まっている。
 その様子が気になり、「どした?」と彼は聞いた。

「知らないおじちゃんが入ってきた」
 息子は涙と鼻水でぐちゃぐちゃの顔を彼に向け、そう答えた。
 その知らない人は、玄関の扉をすり抜けて来て、彼の目の前を通り過ぎると、玄関のすぐ横にあるトイレのドアを通り抜けていったのだと言う。
 義文さんはすぐにトイレのドアを開けたが、その中には誰もいなかった。

「変なとこが似ちゃったなぁ」
 そういって義文さんは苦笑いした。

(超-1 2008/「親譲り」より)


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