【リライト】そういう運命

2008年04月30日 00:10

 小倉さんが最初にその子と出逢ったのは、デザインの専門学校に通う為に借りた、国立のとあるマンションだった。
 その日の授業は午後からだったので、起きてからずっと、彼は部屋に寝転がってぼーっとしていた。

「あそぼ」

 女の子がそう言って、彼の顔を覗き込んだ。
 赤いスカートに白いブラウスの、小学校低学年くらいの女の子。
 しかし、目と鼻の先にいるその子の姿は、酷くぼんやりとしていた。
 まるで、身体全体にプライバシー保護の”ぼかし”が入れられているように。
 彼は起き上がり、部屋を逃げ出して友人宅に飛び込んだ。

 それからたびたび、その女の子は姿を現すようになった。
 彼が眠っていると起こされる。
 風呂でさっぱりして部屋に戻るとそこにいる。
 学校から帰り、玄関を開けたら目の前にいる。
 さらには、彼の名前を呼ぶことまであった。
 そのたび、彼は友人の家に逃げ込んでいたのだが、誰一人として彼の話を信じてはくれなかった。
 彼は引っ越したくて仕方がなかったのだが、学生にそんな余裕はない。

 そのうち、女の子が少しずつ育っているような気がしてきた。
 しかし、それは気のせいではなかった。
 日進月歩の勢いで、女の子は少女へ、少女は大人へ近づきつつある。
 等身も伸び、手足ら身体のラインがはっきりと変わってきている。
 このまま育って大人の姿になった時、きっと僕は取り殺されるんだ。
 彼は半ば諦めていた。

 しかし、女の子は大人になりきる前に、姿を現さなくなった。

 それはちょうど、小倉さんに彼女が出来た頃だった。
 それから間もなく、二人は結婚し、長女を授かった。

 小倉さんは長女の顔を見ると、複雑な思いになる。
 娘の面差しが、どことなくあの女の子に似ているような気がするのだ。
 かといって、嫌な気持ちがするわけではない。

「今は幸せです」
 彼は笑顔でそう言うのだった。

(超-1 2008/「そういう運命」より)


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