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2008-04-30 Wed 01:52
広瀬君は、とある引越社に勤めている。
その仕事であちこちに出掛けるたびに、彼は見たくもないモノを目撃する。 家でも入れ替わり立ち替わり、様々なモノが寄りつく。 その度に激しい頭痛と吐き気に襲われる。 彼がそんな体質に気付いたのは中学の頃。 部屋で漫画を読んでいると、部屋の隅に鶏くらいの大きさの黒いモヤのような塊が見えた。 その塊はどういうわけか、広瀬君に敵意をむき出しにしている。 訳がわからないまま、彼はその塊に謝っていた。 するとしばらくして、それは姿を消した。 彼は高校を卒業し、大学に入ったが二年ほどで中退。役者を目指してバイトをしながら俳優学校に通うようになった。 その頃から、徐々に怪しいモノを見る頻度が増えていった。 その大きな要因が、当時付き合い始めた彼女だった。 彼女はドライブが好きだった。 ことあるごとにペーパードライバーだった広瀬君を呼び出し、レンタカーを借りると運転してもらい、彼女は助手席に座る。 彼女の方が運転は手慣れたものなのだが、彼女は運転してもらう方が好きだった。 これまで沖縄の離島でしか運転経験がない彼にとって、初めて通る高速道路は最大の難所だった。 どうにか目的地に着いた頃には、自分がどうやって運転してきたか、まるで憶えていない。 問題は帰り道だった。 もう高速道路に入りたくなかった彼は、一般道を進んだ。 やがて車は、暗峠に辿り着いた。 地図上ではほぼ一直線に山を突っ切る近道に見えた。 確かに近道には違いないのだが、余りにもその道は細かった。 そこがドライバーの間でも有名な難所だということを、彼が知る由もなかった。 しかしそんな広瀬君でも、そこが心霊スポットと言うことだけは知っていた。 霊の怖さよりも、高速の怖さの方が勝った故の選択だったが、裏目に出た。 彼は激しく後悔しながら、ヘッドライトに照らされた細道をゆっくりと進んだ。 その時、彼を激しい頭痛が襲った。 いつも強い敵意を持つモノが現れる時と同じだ。 (ああ畜生、出やがった……) バックミラーを、白い影が横切る。 そこには、無数の顔が浮かんでいた。 血まみれの顔、悲しげな顔、憤怒の顔、嘲笑を浮かべる顔……。 それらが、彼の車を追ってきている。 しかし、この急勾配の悪路では、スピードを上げることが出来ない。 頭痛と吐き気はどんどん強くなっていく。 遠のきそうになる意識をどうにか保ちながら、ハンドルを切る。 やがて車が峠を抜けると、亡者達の追従は止まった。 彼の苦労をよそに、彼女は助手席で小さな寝息を立てていた。 それから、人ならざるモノ達を見る頻度が極端に増えた。 道端に、駅に、校舎内に、そして彼の部屋に、それらは姿を現す。 ある時、彼女が待ち合わせの場所にやってきた時、その背後に付き纏う複数の影を見て、彼は確信した。 彼女は、それらのモノを惹きつけ、そして連れてくる。 そしてそれは、彼に多大な影響を及ぼすに至ったのだと。 間もなく、広瀬君は彼女と別れた。 見る男と連れて来る女とでは相性が悪かったのだと、彼は漏らした。 (超-1 2008/「見る男、連れ女」より) |
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