2008年04月30日 20:01
今から十七年ほど前、美穂さんは友人の梨津子さんと二人で長屋のような二階建て住宅に住んでいた。
ある夜、二階にある寝室のベッドの中で、美穂さんはなかなか寝付けずにいた。
夕方から降り出した秋雨が、肌寒さを伴ってしとしとと一晩中降り続いている。
その雨音を聞きながら、彼女は何度も寝返りを打った。
不意に、隣に寝ていた梨津子さんがむくりと身体を起こした。
そのまま立ち上がるのでも寝直すのでもなく、彼女は窓に視線を向け、何やら気配を伺っている。
「なに?」
「シッ」
指を口元に当てて美穂さんを制し、彼女は息を殺す。
雨音だけが室内に届く。
彼女は静かに起き上がり、ベッドから離れると窓のそばに立ち、階下を見下ろす。
……ポ…ォ…ン。
弱々しく、チャイムを鳴らす音が聞こえた。
梨津子さんの全身に戦慄が走った。
彼女の視線の先、玄関の前に、奇妙なモノがいた。
長い胴体の上に、不釣り合いに大きな頭が乗っている。
胴体から伸びる手足は、パイプのように細長い。
その全身は、白い産毛のようなもので被われている。
その姿は、歪に作られた人形のようだ。
それが右手を伸ばし、玄関のチャイムを何度も鳴らしている。
異変に気づいた美穂さんが起き上がろうとするのを、梨津子さんは制止した。
彼女のこわばった表情を見て、美穂さんは動けなくなった。
再び視線を窓の下に戻すと、白いものが上を見上げた。
そしてそのまま、頭だけが伸び上がってくる。
(気付かれた?)
悪寒が走る。
その時、右隣の家の窓が開く音がした。
するとその頭は元に戻り、彼女達の住む家の玄関から離れた。
背中を折りたたむように丸め、長い手足をもてあますように動かしながら、隣の家の前に移動していく。
嫌な気配が逸れたことを感じた梨津子さんは、ゆっくりベッドに戻った。
美穂さんからいろいろと質問されたが、恐怖が拭えず、何も話すことが出来なかった。
それから間もなく、梨津子さんの提案で二人は引っ越した。
新居に移ってはじめて、梨津子さんはあの時のことを美穂さんに話した。
その話を聞いて、美穂さんはあることを思い出した。
あの家に引っ越してきて間もなく、梨津子さんはこんなことを言っていた。
「気のせいか、ご近所でお葬式が多い気がする」
その時は余り気にしていなかったのだが、今になって思い返すと、確かに多かった。
通り沿いの住宅で、余り間を開けずに死者が出ていた。
それも、一件おきに。
「もし、あの時玄関を開けていたら……。そう思うと、ちょっとね」
改めてあの夜のことを思い出し、美穂さんは身震いした。
(超-1 2008/「訪問者」より)
ある夜、二階にある寝室のベッドの中で、美穂さんはなかなか寝付けずにいた。
夕方から降り出した秋雨が、肌寒さを伴ってしとしとと一晩中降り続いている。
その雨音を聞きながら、彼女は何度も寝返りを打った。
不意に、隣に寝ていた梨津子さんがむくりと身体を起こした。
そのまま立ち上がるのでも寝直すのでもなく、彼女は窓に視線を向け、何やら気配を伺っている。
「なに?」
「シッ」
指を口元に当てて美穂さんを制し、彼女は息を殺す。
雨音だけが室内に届く。
彼女は静かに起き上がり、ベッドから離れると窓のそばに立ち、階下を見下ろす。
……ポ…ォ…ン。
弱々しく、チャイムを鳴らす音が聞こえた。
梨津子さんの全身に戦慄が走った。
彼女の視線の先、玄関の前に、奇妙なモノがいた。
長い胴体の上に、不釣り合いに大きな頭が乗っている。
胴体から伸びる手足は、パイプのように細長い。
その全身は、白い産毛のようなもので被われている。
その姿は、歪に作られた人形のようだ。
それが右手を伸ばし、玄関のチャイムを何度も鳴らしている。
異変に気づいた美穂さんが起き上がろうとするのを、梨津子さんは制止した。
彼女のこわばった表情を見て、美穂さんは動けなくなった。
再び視線を窓の下に戻すと、白いものが上を見上げた。
そしてそのまま、頭だけが伸び上がってくる。
(気付かれた?)
悪寒が走る。
その時、右隣の家の窓が開く音がした。
するとその頭は元に戻り、彼女達の住む家の玄関から離れた。
背中を折りたたむように丸め、長い手足をもてあますように動かしながら、隣の家の前に移動していく。
嫌な気配が逸れたことを感じた梨津子さんは、ゆっくりベッドに戻った。
美穂さんからいろいろと質問されたが、恐怖が拭えず、何も話すことが出来なかった。
それから間もなく、梨津子さんの提案で二人は引っ越した。
新居に移ってはじめて、梨津子さんはあの時のことを美穂さんに話した。
その話を聞いて、美穂さんはあることを思い出した。
あの家に引っ越してきて間もなく、梨津子さんはこんなことを言っていた。
「気のせいか、ご近所でお葬式が多い気がする」
その時は余り気にしていなかったのだが、今になって思い返すと、確かに多かった。
通り沿いの住宅で、余り間を開けずに死者が出ていた。
それも、一件おきに。
「もし、あの時玄関を開けていたら……。そう思うと、ちょっとね」
改めてあの夜のことを思い出し、美穂さんは身震いした。
(超-1 2008/「訪問者」より)






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