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2008-04-30 Wed 20:04
増田さんは都心に近い郊外の一戸建てに住んでいる。
元々は両親が住んでいたもので、二人が早くに亡くなってからは、増田さんと奥さん、そしてミニチュアダックスフンドの二人と一匹で暮らしていた。 奥さんが妊娠四ヶ月目に入り、子供を迎え入れる為の準備を進めていた頃。 増田さんは、隣家に面する古いブロック塀を、新しくコンクリートの板塀に替えることにした。 現在のブロック塀はかなり古く、苔むして黴臭く老朽化が進んでいて、以前から気になっていたのだ。 業者に工事を依頼し、その着工日を迎えた。 会社から帰宅した増田さんは、半分だけ崩されたまま、放置されているブロック塀を見てがっかりした。 奥さんに尋ねると、彼女は無言で庭先のゴミ袋を指さした。 その中に、こぶし大ほどの白い塊がごろごろと大量に入っている。 業者がブロック塀の解体をはじめた時に、ブロック塀の穴にそれが詰め込まれているのを発見したのだという。 それは油紙を幾重にも重ねて作られたダンゴだった。 業者がそれを開いてみると、中には白く固まる結晶が詰まっている。 それは圧力で固形化した塩の塊だった。 そんなものが塀の穴という穴に封じられている。 薄気味悪くなった業者は奥さんに、ご主人に相談してみてくださいと言い残し、作業半ばで引き揚げてしまった。 増田さんは迷信を信じていない。 彼には塩の塊などどうでもよく、仕事を放り出した業者に腹が立った。 翌朝になると、彼はすぐに業者に電話を入れ、何が出てこようと構わないから早く工事を済ませろ、と強い口調で念を押した。 そして間もなく、工事は完了した。 明るい色合いの立派な壁が出来あがり、家全体が明るく見えた気がした。 しかし、それは違っていた。 家の中が妙に薄暗くなり、空気が澱みはじめた。 換気の為に窓を開けても、湿気取りを設置しても一向に改善されない。 台所を皮切りに、酷い湿気と黴が広がりつつあった。 大人しかった愛犬の様子が徐々におかしくなり、部屋のあちこちに向かって唸りを上げる。 愛犬はそのうち、家具のあちこちに牙を立て、目を血走らせるようになった。 増田さんはその頃から頭痛や腹痛が続き、酷く悩まされていた。 穏やかな性格だったはずの彼が、感情を爆発させる事が増えた。 彼の心の余裕は全くなくなっていた。 明るかった奥さんは、酷くふさぎ込むようになった。 身綺麗にしていた彼女は一切化粧をしなくなり、余り出掛けなくなった。 妊娠中には良くあること、と言っていたが、彼女は徐々に体調を崩していった。 そして、子供を失った。 傷心の奥さんが実家に戻ると、薄暗い家はますますその影を濃くしていった。 抜け毛だらけの愛犬はよだれを垂らしながら部屋を歩き回り、後ろ足で荒れた肌を掻きむしる。 それが伝染したのか、増田さんの肌にも瘡蓋が広がりつつあった。 その頃から、さらなる異変が家を襲った。 増田さんが一階の居間にいると、二階を歩く足音がする。 夜眠っていると、衝撃音とともに家が激しく揺れる。車が突っ込んだわけでも、地震が発生したわけでもない。 増田さんは、その異常さを認めるほかなかった。 そしてその原因が、あの塩団子を除去したことにあるということも。 しかし、この家のことをよく知っていた両親は、もういない。 仕方なく、近所の寺社を仏閣を尋ねてまわったが、塩団子について有力話を聞くことは出来なかった。 事態を打開するにしても、胡散臭い霊媒師や占い師を頼る気にはなれない。 とにかく、元の状態にさえ戻せればそれでいい。 彼はそれを実行に移した。 彼が苦肉の策を施してから間もなく、家の様子が劇的に変化した。 あれほど澱んでいた空気が薄らいでいき、部屋が明るさを取り戻した。 愛犬の奇行も収まり、増田さんの体調も徐々に回復していった。 それから間もなく、回復した奥さんも戻ってきた。 明るい色をしたコンクリート壁の下には、土を掘り起こしたあとがある。 その土の下には、百円ショップで購入してきたパスタストッカーが数十個、埋められている。 パスタトッカーの中にはびっしりと隙間なく、塩が詰められている。 素人の遊びのようなその仕掛けで、彼の家は平穏を取り戻した。 しかし。 「細かいことは言えませんけど」 増田さんは言葉を濁した。 彼の家が平穏を取り戻した頃、隣家の様子が徐々におかしくなっていったのだという。 そして今、隣家は取り壊され、コイン駐車場になっている。 |
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