【リライト】にごり水

2008年03月31日 10:35

「あ、水たまり」
 真理ちゃんは足を止め、その大きな水たまりを見た。
 見上げれば青い空。昨日・一昨日と同じ良い天気。
 赤黒く濁った水を覗き込むと、ぼんやりとした彼女の姿が映り込んだ。
 新品の靴を汚さないよう、慎重に水たまりを避けて、家路へ急いだ。

「あれ? またある」
 翌日の帰り道、真理ちゃんの目の前には昨日と同じ、赤い水たまりがあった。
 朝の通学時にはなかったのに。
 形も大きさも濁り具合も昨日のものと同じ。
 ただ、ちょっとだけ位置が違った。
 ほんの少し、昨日よりも彼女の家に近い。
 昨日と同じように、慎重に水たまりを避けて、家路へ急いだ。

 その翌日も、そのまた翌日も。
 朝はない水たまりが、帰り道には道路の上に姿を現す。
 その水たまりは、だんだんと真理ちゃんの家の方に近づいている。
 今日は、家の前の大通りに水たまりが出来ていた。
 翌日の帰り道の事を考えると、彼女は気が重くなった。

 そして翌日の帰り道。
 水たまりは真理ちゃんの家の目の前にあった。
 やり過ごす隙間もない。
 彼女は水たまりの前で途方に暮れた。

 とぷん。

 赤くドロっとした水面に、波紋が出来た。
 波紋が幾重にも広がり、やがて、水面に奇妙なものが現れた。
 小さな丸い何かがふたつ、徐々に水中からせり上がってくる。
 それが小さな踵の部分だとわかったのは、足の指と思しい部分が、水面に姿を現してからだった。
 やがて足首があらわになり、脛、膝、太股と、水面に逆さに突き出すようにして、人間の下半身が姿を現した。
 ふくよかな肉付きに未発達のパーツ。
 そして、小さなおちんちんが水面に姿を現したところで、真理ちゃんは悲鳴を上げて水たまりを飛び越え、家の中に逃げ込んだ。

 その日の夕方、入院中の真理ちゃんのお母さんから連絡が入った。
「真理ちゃん、弟が産まれたよ」

(超-1 2008/「にごり水」より)


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