【リライト】落ちてくるもの

2008年04月04日 01:22

 あそこは出るぞ。
 仲間内ではことあるごとに、その話が出る。
 国鉄のとある車庫の敷地内。
 その場所を歩いていると、

 ドン!

 と上から何かが落ちてきて、はじき飛ばされたり、時には下敷きにされたりする。
 むち打ちになる者、擦り傷だらけになる者、中には骨折する者までいた。
 落ちてくる何かについては、ほとんどの人が何も見えなかったという。
 中には、黒い固まりだったという人もいた。
 その場所は避けるように、と互いに注意を呼びかけ合っているが、作業中、そうもいかない時もある。
 定期的に被害者が出続けていた。

 太田さんが意識を取り戻したのは、事務所のソファの上だった。
 同僚によると、あの場所で倒れていたらしい。
 ようやく頭がしゃきっとしてくると、業務に追われていて気づかぬうちに、あの場所に立ち入った事を思い出した。
 やられた。
 そう言うと、仲間は一様に、やっぱり、という顔をした。
「それで、アンタは何か見たか?」
 どうだろうか。彼はゆっくり状況を振り返ってみた。

 見た。
 確かにその時、見た。
 彼の頭上から降ってきた”顔”をはっきり見た。
 くわっと見開かれた、大きな丸い目。
 ごつごつした歯がはみ出した、裂けたような口元。
 乾いた血のような、赤黒い肌。
 人間の顔の造形とはあまりにもかけ離れたその”顔”が、はっきりと記憶に残っていた。
 彼の説明に、仲間は皆言葉を失い、顔を見合わせた。

 国鉄が民営化されて久しいが、その車庫は今でもある。
 あの場所も当時のまま、そこにある。

(超-1 2008/「落ちてくるもの」より)


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