【リライト】夜釣り

2008年04月05日 02:18

「俺、イシダイだけは絶対に釣りに行かない」
 釣り仲間が昼食を摂りながら、次の獲物について話に花を咲かせている時、嶋野さんがぽつりと漏らした。
「どうしてだよ?」
 という仲間の問いに、彼はなかなか口を開かない。
 それでも食い下がる仲間達に根負けしたのか、彼は訥々と話し始めた。

 その日、彼は一人である岩場にいた。
 釣り仲間から教えてもらったそのポイントは、イシダイがよく釣れるのだという。
 その言葉の通り、竿を垂らせばすぐにアタリが来る。
 次々とイシダイを釣り上げ、一心不乱に釣り続けるうち、いつしか日が落ちていた。
 漆黒の海面を、彼のヘッドライトが照らす。
 潮騒だけが耳に届く。
 彼の他には誰もいない。
 ふと、寂しい気持ちになった。

「もう、そこら辺にしておいた方がいいんじゃないですか?」

 背後から声をかけられた。
 振り返ったが、ヘッドライトは誰もいない岩場を照らすだけだった。
 背筋が震えた。
 が、竿に手応えを感じ、彼は湖面に向き直って釣りを続けた。
 結果、爆釣となった。
 持てる分だけ持ち帰り、一部を逗留先の旅館で調理してもらうと、残りは親戚や知人にお裾分けをした。

 それから数日後、そのポイントから死体があがった。
 たまたま引き揚げ場面に出くわした釣り仲間によると、腐食が激しい上に損傷が激しく、直視出来ない惨状だったという。
 その損傷の殆どが、死後に魚に食い荒らされたものだったらしい。
 あの夜の爆釣の理由は、もうそれ以外考えられない。
 そして、あの声の主は。

「イシダイを見ると、あの声が蘇るんだよ。だからもう、イシダイだけは絶対食べないし、釣りにも行かない」
 話し終えた彼の顔からは、血の気が失せて青ざめていた。

(超-1 2008/「夜釣り」より)


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