【リライト】フラミンゴ

2008年04月06日 03:51

 直樹さんは鳥が嫌いだ。
 鳴き声、嘴、翼をはためかす音、ガラス玉のような目、どれも身震いがする。
 それは、幼少期の体験によるところが大きい。

 彼の祖父は大の鳥好きだった。
 インコ、十姉妹、九官鳥、オウム、ペリカン、孔雀……。
 祖父の家はさながら、鳥類専門の動物園の様相を呈していた。
 敷地内でそれらは放し飼いになっており、幼かった直樹さんは何度も追いかけられ、攻撃を受けた。
 それで好きになれるはずがない。
 特に印象に残っていたのが、フラミンゴだった。
 日本庭園の池の中程にある石の上に、鮮やかなピンク色のフラミンゴが凛と立っている。
 何かされたわけではないが、その存在感に恐れを感じていた。

 直樹さんが社会人になってから、数年ぶりに祖父の家を訪れる機会があった。
 数こそ一時期より少なくなったものの、相変わらずの鳥屋敷に、直樹さんは身を竦めた。
 通された客間からは、あの日本庭園が見える。
 池の真ん中に、あのフラミンゴがすっと立っている。
「ああ、あのフラミンゴか。この間死んでしまってな」
 祖父の言葉に、彼は狼狽した。
 フラミンゴは昔と変わらず、どぎついピンク色をしている。
「え、じゃあ、あそこに立っているのは……?」
「何を言ってるんだ? 俺には何も見えないが……」

 そのフラミンゴが見えるのは、彼だけだった。

 祖父の死後、鳥は方々に引き取られていき、一羽もいなくなった。
 だが、主のいなくなった屋敷の庭には、相変わらず、あのフラミンゴの姿があった。
 その姿に、彼は憎悪すら抱き始めていた。

「あそこ、今度マンションにするんだ。これがその設計図さ。
 これであのフラミンゴもようやく、葬られるという訳さ」
 そう言うと、彼は煙草の煙を深く吸い込んだ。

(超-1 2008/「フラミンゴ」より)


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