2008年04月07日 01:35
大学生の美紀さんには、同じ大学生の彼がいた。
互いに口にこそしなかったものの、将来への思いは同じと感じていた。
週末になると、彼の車でいろいろな場所へデートに出掛けた。
その日も、彼女は玄関先で彼の到着を待った。
だが、彼が来る事はなかった。
その夜、彼の母親から、彼が事故死した事を告げられた。
車線をオーバーしてきたトラックとの正面衝突。即死だった。
その日から、美紀さんの世界から色彩が失われた。
自分の過去も未来もすべて、消えてなくなった絶望感。
わたしがあの日呼ばなければ、と、彼女は自分を責め続けた。
その日も、彼の写真を見ながら泣き続けていた。
「美紀」
その言葉に振り返ると、彼が立っていた。
以前と変わらない優しい笑顔で、彼女を見つめている。
「美紀、自分を責めたりしたら駄目だよ。僕はずっと、美紀を見守っているから」
彼女の瞳から、とめどなく涙があふれ出した。
その涙を、彼がそっとぬぐった。
「早くいつもの美紀に戻って。元気を出して」
気づくと、ベッドの上だった。
泣きながら、眠りに落ちていたらしい。
夢だったのだろうか。
そうは思えなかった。
頬に触れた彼の手のぬくもりが、まだ残っていた。
それからも時々、彼は夢に現れた。
その度に彼は美紀さんを励まし、慰めてくれた。
このままじゃいけない。
徐々に彼女は、元気を取り戻しつつあった。
ある日の帰り道、人気のない夜の横断歩道で、彼女は信号が変わるのを待っていた。
歩道の信号が青になり、歩き出そうとした時。
「美紀! 待って!」
彼の声がした。
思わず立ち止まった瞬間、彼女の目の前を、猛スピードで車が通りすぎていった。
もしあのまま歩き出していたら……。
彼の姿はどこにもなかった。だが美紀さんははっきりと、彼の存在を感じていた。
彼女は大学を卒業し、ある企業に就職した。
そこである男性と知り合い、恋に落ちた。
交際から結婚まで、スムーズに進んだ。
式の前夜、彼女は夢を見た。
彼が、彼女の前に立ち、微笑んでいた。
「美紀、結婚おめでとう」
やや寂しげな、しかし気持ちのこもった暖かい声。
「彼ならきっと、美紀の事を幸せにしてくれるよ」
彼女は彼の胸に顔をうずめ、号泣した。
彼は彼女の肩に手を置いて、彼女を黙って受け止めた。
彼女が泣き終わると、彼はそっと、その手を離し、一歩下がった。
「僕の役目は、今日で終わりだ」
彼の姿が徐々に遠ざかっていく。
「これからは、美紀の事は彼が守ってくれる。
……僕がいなくても、美紀、君はもう大丈夫」
彼が手を振る。
その姿は、いつものデートの終わり、彼女を見送ってくれた、あの頃のままだ。
彼の姿は光の中へ消えていった。
目を覚ました時、彼女は、もう彼がいない事を感じた。
……ありがとう。
涙をぬぐいながら、彼女はひとり呟いた。
美紀さんは現在、旦那と二人の娘に囲まれて暮らしている。
「今の生活は、不満をあげたらきりがないけど、まあ、一応幸せなのかな」
そう言いながら彼女は、優しい笑顔で結婚指輪を見つめ、窓の外を見た。
彼方に去った人を、偲ぶように。
(超-1 2008/「もう大丈夫」より)
互いに口にこそしなかったものの、将来への思いは同じと感じていた。
週末になると、彼の車でいろいろな場所へデートに出掛けた。
その日も、彼女は玄関先で彼の到着を待った。
だが、彼が来る事はなかった。
その夜、彼の母親から、彼が事故死した事を告げられた。
車線をオーバーしてきたトラックとの正面衝突。即死だった。
その日から、美紀さんの世界から色彩が失われた。
自分の過去も未来もすべて、消えてなくなった絶望感。
わたしがあの日呼ばなければ、と、彼女は自分を責め続けた。
その日も、彼の写真を見ながら泣き続けていた。
「美紀」
その言葉に振り返ると、彼が立っていた。
以前と変わらない優しい笑顔で、彼女を見つめている。
「美紀、自分を責めたりしたら駄目だよ。僕はずっと、美紀を見守っているから」
彼女の瞳から、とめどなく涙があふれ出した。
その涙を、彼がそっとぬぐった。
「早くいつもの美紀に戻って。元気を出して」
気づくと、ベッドの上だった。
泣きながら、眠りに落ちていたらしい。
夢だったのだろうか。
そうは思えなかった。
頬に触れた彼の手のぬくもりが、まだ残っていた。
それからも時々、彼は夢に現れた。
その度に彼は美紀さんを励まし、慰めてくれた。
このままじゃいけない。
徐々に彼女は、元気を取り戻しつつあった。
ある日の帰り道、人気のない夜の横断歩道で、彼女は信号が変わるのを待っていた。
歩道の信号が青になり、歩き出そうとした時。
「美紀! 待って!」
彼の声がした。
思わず立ち止まった瞬間、彼女の目の前を、猛スピードで車が通りすぎていった。
もしあのまま歩き出していたら……。
彼の姿はどこにもなかった。だが美紀さんははっきりと、彼の存在を感じていた。
彼女は大学を卒業し、ある企業に就職した。
そこである男性と知り合い、恋に落ちた。
交際から結婚まで、スムーズに進んだ。
式の前夜、彼女は夢を見た。
彼が、彼女の前に立ち、微笑んでいた。
「美紀、結婚おめでとう」
やや寂しげな、しかし気持ちのこもった暖かい声。
「彼ならきっと、美紀の事を幸せにしてくれるよ」
彼女は彼の胸に顔をうずめ、号泣した。
彼は彼女の肩に手を置いて、彼女を黙って受け止めた。
彼女が泣き終わると、彼はそっと、その手を離し、一歩下がった。
「僕の役目は、今日で終わりだ」
彼の姿が徐々に遠ざかっていく。
「これからは、美紀の事は彼が守ってくれる。
……僕がいなくても、美紀、君はもう大丈夫」
彼が手を振る。
その姿は、いつものデートの終わり、彼女を見送ってくれた、あの頃のままだ。
彼の姿は光の中へ消えていった。
目を覚ました時、彼女は、もう彼がいない事を感じた。
……ありがとう。
涙をぬぐいながら、彼女はひとり呟いた。
美紀さんは現在、旦那と二人の娘に囲まれて暮らしている。
「今の生活は、不満をあげたらきりがないけど、まあ、一応幸せなのかな」
そう言いながら彼女は、優しい笑顔で結婚指輪を見つめ、窓の外を見た。
彼方に去った人を、偲ぶように。
(超-1 2008/「もう大丈夫」より)






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