【リライト】口移し

2008年04月07日 01:47

 二歳の弟、祐二が死んだ。
 頭蓋骨が陥没する奇病で、突然の事だった。
 その亡骸を前に、両親と一緒に正座していた。
 そこへ、近所の友達の忠義君を連れて、彼の母親が訪れた。
 半袖半ズボンから覗く忠義君の手足は、皮膚が酷く荒れていて、所々膿んでいた。
 幼い頃から皮膚病が酷く、医者や祈祷師を頼ったが改善しないのだという。
 私の両親と忠義君の母は話をし、そして、弟を取り囲むように座った。
 疑問に思う私に、父がひとこと、これから”口移し”の儀式を行うとだけ告げた。

 やがて、近所に住む拝み屋のおばさんが現れた。
 おばさんは弟のそばに座ると、懐から半紙を取り出し、弟の体中をその半紙で撫でた。
「祐二ちゃん、忠義君の病気を、持って行ってあげてや」
 その言葉に、忠義君の方を見た。
 見守る私たちの目の前で、彼の皮膚がみるみると綺麗になっていく。
 膿みが引き、ひび割れた肌にに潤いが出て、鮮やかな血色の良い肌へと変化していく。
 眼前で繰り広げられる奇跡に、全員言葉を失った。
 そして忠義君の全身が綺麗になると、拝み屋のおばさんは帰って行った。
 大喜びの忠義君とともに、彼の母は何度も頭を下げた。

 弟の月命日には必ず、忠義君一家がお参りに訪れた。

「その忠義君も、つい先日亡くなったんですけどね」
 年配のタクシーの運転手は感慨深げに呟いた。
 彼がまだ幼い頃、四国の田舎での出来事だそうだ。

(超-1 2008/「口移し」より)


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