【リライト】憑物音痴

2008年04月07日 23:37

 茜さんの彼には、ふたつの問題がある。
 ひとつはキャバクラ通い。
 自分の給料の範囲内でやりくりしているし、浮気をされるよりはマシと思い、彼女は許可している。
 もうひとつが”お持ち帰り癖”だ。
 と言っても、持ち帰ってくるのは生身の女の子ではない。

 ある夜、彼女は息苦しさに目を覚ました。
 何者かが、自分の首を絞めている。
 薄明かりに照らされたその姿は、体がぐずぐずに崩れかけた男だった。
 男は片手で彼女の首を絞めながら、空いている手で彼女の手をまさぐっている。
 息苦しさに、彼女は意識を失った。

 翌日、部屋の隅に盛り塩をした。
 外出から戻ってくると、化粧台の上の瓶が全て割れていた。

 彼の”お持ち帰り”には法則があった。
 それは彼がキャバクラに行った日の夜に限定されていた。
 しかもその張本人には何事もなく、けろっとしている。
 持ち帰られた者達は、数日すると姿を消す。

 ある日の朝、茜さんは妙な事に気づいた。
 うっかり味付けを間違えた朝食を、彼が普段通りに食べている。
 その姿はどう見ても無理をしているようには見えない。
 その夜も、持ち帰られた者が彼女を苦しめた。

 それから、彼女は彼がキャバクラに行った翌朝には、味付けを間違えた朝食を出すようにした。
 味がおかしい事に気づいた日には、何事も起きない。
 だが、気づかず完食した日には、ほぼ100パーセントの確率で出た。
 ただしこれは判別法であり、撃退法ではない。
 心構えが出来るだけマシなのだが、それにも限界がある。

 そろそろキャバクラ通いを辞めてもらうか、別れてもらうか。
 茜さんはその究極の選択を、切り出そうかどうか迷っている。

(超-1 2008/「憑物音痴」より)


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