2008年04月09日 01:08
住谷君にはふたりの悪友がいる。
ひとりはサークル仲間の長井君。
彼は北に心霊スポットあれば馳せ参じ、西に心霊写真あれば焼き増しするといった、筋金入りのオカルトマニア。
そんな彼のお供は住谷君。そしていつも被害に遭うのも住谷君。
もうひとりは、二人の共通の友人である酒田君。
彼はそっち方面の受信機のような素質があり、彼自身がそれらを見えるだけではなく、同行者にも解る形で何かが起こる確率が飛躍的に上がる。
もちろん、その何かに遭遇するのは住谷君の役目だ。
その二人が揃うとどうなるかは、言うまでもない。
その被害者は他でもない、住谷君その人である。
その日も、住谷君のアパートに二人がやって来ていた。
大学三年の夏休みの夜、三人揃って部屋でゴロゴロしていると、長井君がさらっと言った。
「コックリさんでもやるか」
いつもの突拍子もない提案に、いつも通り住谷君は猛反発した。
「十円玉ならあるぞ」
いつも通り酒田君が華麗にスルー。文句を言い続ける住谷君を尻目に、二人は着々と準備を進めた。
そして五十音・数字・”はい””いいえ”・鳥居などがチラシの裏に書き込まれ、定位置にセットされた十円玉の上に、二人は指を置いた。
住谷君は見学者扱いとなり、どうにか参加を免れた。
「コックリさんコックリさん、いらっしゃいましたら”はい”の方へ移動してください」
長井君の何度目かの呼びかけに応じるように、二人の指を乗せた十円玉が滑り出した。
しかし、最初こそ”はい”の位置に移動したものの、その後の二人の質問に答えるどころか、出鱈目な動きを続けた。
自由気ままな十円玉を見続ける事五分。
「なんだこれ?」
酒田君が呟いた。
「地獄が見える」
その顔は十円玉の方を見ておらず、部屋全体を見渡すかのようだ。
その時、彼の眼前に広がっていたのは、ありきたりの六畳間の風景ではなかった。
黒い山々に囲まれた、草ひとつない岩だらけの荒野。
今にも暴風雨になりそうなほどの、どす黒い雷雲が立ちこめる空。
手前に見えるのは、底の見えない赤黒い液体が満たされた池。
「血の池地獄だ」
息を呑む二人の目の前で、彼は空いている左手を、湯加減でも見るかのように床に向けて垂らした。
その手が、指先からみるみる真っ赤に染まっていく。
「お前、手! 手!」
二人の呼びかけに、彼は手を引き戻した。しかし、特に痛がっている様子はない。
「あれ? 風が吹いてるのかな。池が波立ってきた」
酒田君の言葉に、長井君はぞっとした。
「コックリさんコックリさん、お戻りください!」
と早口で言うなり、無理矢理十円玉を鳥居の場所に押し込んだ。
その途端、酒田君は顔色が悪くなり、台所の流しに駆け込むと嘔吐した。
酒田君の手は、それから十日経ってようやく元の色に戻った。
その日以来、”コックリさん禁止”は三人の暗黙の了解となった。
が、住谷君の抵抗も空しく、スポット巡りはそれからも続けられた。
(超-1 2008/「血の池地獄」より)
ひとりはサークル仲間の長井君。
彼は北に心霊スポットあれば馳せ参じ、西に心霊写真あれば焼き増しするといった、筋金入りのオカルトマニア。
そんな彼のお供は住谷君。そしていつも被害に遭うのも住谷君。
もうひとりは、二人の共通の友人である酒田君。
彼はそっち方面の受信機のような素質があり、彼自身がそれらを見えるだけではなく、同行者にも解る形で何かが起こる確率が飛躍的に上がる。
もちろん、その何かに遭遇するのは住谷君の役目だ。
その二人が揃うとどうなるかは、言うまでもない。
その被害者は他でもない、住谷君その人である。
その日も、住谷君のアパートに二人がやって来ていた。
大学三年の夏休みの夜、三人揃って部屋でゴロゴロしていると、長井君がさらっと言った。
「コックリさんでもやるか」
いつもの突拍子もない提案に、いつも通り住谷君は猛反発した。
「十円玉ならあるぞ」
いつも通り酒田君が華麗にスルー。文句を言い続ける住谷君を尻目に、二人は着々と準備を進めた。
そして五十音・数字・”はい””いいえ”・鳥居などがチラシの裏に書き込まれ、定位置にセットされた十円玉の上に、二人は指を置いた。
住谷君は見学者扱いとなり、どうにか参加を免れた。
「コックリさんコックリさん、いらっしゃいましたら”はい”の方へ移動してください」
長井君の何度目かの呼びかけに応じるように、二人の指を乗せた十円玉が滑り出した。
しかし、最初こそ”はい”の位置に移動したものの、その後の二人の質問に答えるどころか、出鱈目な動きを続けた。
自由気ままな十円玉を見続ける事五分。
「なんだこれ?」
酒田君が呟いた。
「地獄が見える」
その顔は十円玉の方を見ておらず、部屋全体を見渡すかのようだ。
その時、彼の眼前に広がっていたのは、ありきたりの六畳間の風景ではなかった。
黒い山々に囲まれた、草ひとつない岩だらけの荒野。
今にも暴風雨になりそうなほどの、どす黒い雷雲が立ちこめる空。
手前に見えるのは、底の見えない赤黒い液体が満たされた池。
「血の池地獄だ」
息を呑む二人の目の前で、彼は空いている左手を、湯加減でも見るかのように床に向けて垂らした。
その手が、指先からみるみる真っ赤に染まっていく。
「お前、手! 手!」
二人の呼びかけに、彼は手を引き戻した。しかし、特に痛がっている様子はない。
「あれ? 風が吹いてるのかな。池が波立ってきた」
酒田君の言葉に、長井君はぞっとした。
「コックリさんコックリさん、お戻りください!」
と早口で言うなり、無理矢理十円玉を鳥居の場所に押し込んだ。
その途端、酒田君は顔色が悪くなり、台所の流しに駆け込むと嘔吐した。
酒田君の手は、それから十日経ってようやく元の色に戻った。
その日以来、”コックリさん禁止”は三人の暗黙の了解となった。
が、住谷君の抵抗も空しく、スポット巡りはそれからも続けられた。
(超-1 2008/「血の池地獄」より)




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