【リライト】訪問

2008年04月10日 01:03

 その日、夜遅く帰宅した三峰さんに、出迎えた奥さんがぽつりと漏らした。
「お葬式って、香典とか渡せば出席しなくてもいいよね?」
 妙な事を言うなと思い、三峰さんは彼女に詳細を尋ねた。
 何でも、パート先の古株の鈴木さんという女性が亡くなったのだという。
 彼女は非常に嫉妬深く、若い女性社員に様々な嫌がらせをしていた。
 三峰さんの奥さんもまた、被害者のひとりだった。
 葬儀は三日後に行われるのだが、会社が葬列者を把握する為に、明日には出欠を申告しないといけないらしい。
 奥さんは三峰さんの夜食を温め直しながら、過去に鈴木さんから受けた嫌がらせについて、彼に切々と述べ続けた。

 ひぃんふぉぉぉん。

 その時、リビングの片隅に取り付けられている、インターフォンのスピーカーから音がした。
 それはいつもと違い、気の抜けたような、弱々しい音だった。
 時計を見ると、午前一時を過ぎている。
 二人は顔を見合わせた。

 ひぃんふぉぉぉん。

 再び、弱々しい音がした。
 三峰さんは恐る恐る、インターフォンの受話器を取った。
「どなた?」
 返答がない。
 受話器からは、微かなノイズ音だけが聞こえてくる。
 彼が受話器を戻そうとした時。

 ……来て。

 ノイズに混じって、弱々しい声が聞こえた。

 …………来て。

 ……ごめんなさい。

 ……苦しい。

 三峰さんは受話器を置くと、玄関に向かい、ドアスコープを覗いた。
 誰もいない。
 ドアを開いて辺りを伺ったが、人の気配はなかった。
 試しに、彼はインターフォンのボタンを押してみた。

 ピンポーン。

 いつも通りの小気味いい音が室内に響いた。

 三峰さんの奥さんは翌朝、パート先に葬儀に参加する旨を伝えた。

(超-1 2008/「訪問」より)


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