2008年04月11日 00:44
「わかってるわよ! ちょっとぐらい我慢してよ!」
幸枝さんは突然、母に怒鳴られた。
沖縄旅行の初日、移動の車内は静まりかえった。
普段はとても温厚な母が初めて見せた怒りに、幸枝さんだけでなく、隣に座る叔母、助手席に座る弟、そして運転席の父も面食らっている。
当の幸枝さんには、怒鳴られる覚えがまったくなかった。
訳を尋ねると、母は怒りがさめやらぬ様子で口を開いた。
「だってあなたが、すごく嫌みっぽく文句を言うから……」
「私、何も言ってないよ?」
私が言うと、叔母も加勢した。
「誰も何も言っていないわよ。……何か聞こえたの?」
その数分前、母は捜し物の為、ハンドバッグの中をせわしなく引っかき回していた。
なかなか目当ての物が見つからずにいると、気になるからやめろ、と言われた。
母は、その声が幸枝さんのものと思った。
そのような若い女性は、車内には幸枝さんしかいなかったからだ。
母以外で、その声を聞いた者はいなかった。
その後、一行は昼食を摂る為にレストランに入った。
ウェイトレスは一行を案内し、すぐ水を持ってきた。
その数は六つ。
一行は五人。
みな苦笑していたが、周囲の様子がおかしい。
やたらと騒がしいのだ。
観光地のレストランの昼時ともなると、親子連れも多く、多少騒がしいのは当たり前である。
だが、その時はそんなレベルではなかった。
大声で喋る家族、トレイを落とすウェイター、年季の入った空調。
それらの騒音が、がちゃがちゃと耳障りなのだ。
それはレストランだけに留まらなかった。
ホテルのロビーでは館内アナウンスの音声や他の宿泊客の声が耳に刺さる。
翌日以降の観光巡りの休憩先では、六つの水が出される。
帰りの空港ロビーはおもちゃ箱をひっくり返したような大騒ぎ。
一行にとっては、癒しどころか、普段以上にぐったり疲れ切った旅行となった。
幸枝さんからその話を聞いて約二週間後、遠方に住む友人が近所に立ち寄るというので会うことにした。
その友人も私同様、怖い話・不思議な話に目がない。
二人で入ったファミレスで注文を済ませ、早速、幸枝さんの体験談を彼女に話した。
話し終えてから、店内の様子がおかしい。
やたらと騒がしいのだ。
午後のレストラン内には親子連れも多く、多少騒がしいのは当たり前である。
だが、その時はそんなレベルではなかった。
店内を駆け回る子供、皿を落とすウェイター、挙げ句、子供は窓を叩いて回る始末。
それらの騒音が、がちゃがちゃと耳障りなのだ。
私達は絶句し、足早にそのレストランを後にした。
それはレストランだけに留まらなかった。
駅までの道を、救急車がけたたましくサイレンを鳴らして走りすぎてゆく。
友人を見送る新幹線のホームでは、非常ベルが鳴り出し耳を劈く。
止まったかと思えばまた鳴り出す。それが何度も続いた。
彼女の乗った新幹線がホームから姿を消すと、途端に静けさが戻った。
後日、友人にその後大丈夫だったかを聞いてみたところ、新幹線の車内はとても静かで、その後何事もなく帰宅出来たそうである。
(超-1 2008/「騒々しい」より)
幸枝さんは突然、母に怒鳴られた。
沖縄旅行の初日、移動の車内は静まりかえった。
普段はとても温厚な母が初めて見せた怒りに、幸枝さんだけでなく、隣に座る叔母、助手席に座る弟、そして運転席の父も面食らっている。
当の幸枝さんには、怒鳴られる覚えがまったくなかった。
訳を尋ねると、母は怒りがさめやらぬ様子で口を開いた。
「だってあなたが、すごく嫌みっぽく文句を言うから……」
「私、何も言ってないよ?」
私が言うと、叔母も加勢した。
「誰も何も言っていないわよ。……何か聞こえたの?」
その数分前、母は捜し物の為、ハンドバッグの中をせわしなく引っかき回していた。
なかなか目当ての物が見つからずにいると、気になるからやめろ、と言われた。
母は、その声が幸枝さんのものと思った。
そのような若い女性は、車内には幸枝さんしかいなかったからだ。
母以外で、その声を聞いた者はいなかった。
その後、一行は昼食を摂る為にレストランに入った。
ウェイトレスは一行を案内し、すぐ水を持ってきた。
その数は六つ。
一行は五人。
みな苦笑していたが、周囲の様子がおかしい。
やたらと騒がしいのだ。
観光地のレストランの昼時ともなると、親子連れも多く、多少騒がしいのは当たり前である。
だが、その時はそんなレベルではなかった。
大声で喋る家族、トレイを落とすウェイター、年季の入った空調。
それらの騒音が、がちゃがちゃと耳障りなのだ。
それはレストランだけに留まらなかった。
ホテルのロビーでは館内アナウンスの音声や他の宿泊客の声が耳に刺さる。
翌日以降の観光巡りの休憩先では、六つの水が出される。
帰りの空港ロビーはおもちゃ箱をひっくり返したような大騒ぎ。
一行にとっては、癒しどころか、普段以上にぐったり疲れ切った旅行となった。
幸枝さんからその話を聞いて約二週間後、遠方に住む友人が近所に立ち寄るというので会うことにした。
その友人も私同様、怖い話・不思議な話に目がない。
二人で入ったファミレスで注文を済ませ、早速、幸枝さんの体験談を彼女に話した。
話し終えてから、店内の様子がおかしい。
やたらと騒がしいのだ。
午後のレストラン内には親子連れも多く、多少騒がしいのは当たり前である。
だが、その時はそんなレベルではなかった。
店内を駆け回る子供、皿を落とすウェイター、挙げ句、子供は窓を叩いて回る始末。
それらの騒音が、がちゃがちゃと耳障りなのだ。
私達は絶句し、足早にそのレストランを後にした。
それはレストランだけに留まらなかった。
駅までの道を、救急車がけたたましくサイレンを鳴らして走りすぎてゆく。
友人を見送る新幹線のホームでは、非常ベルが鳴り出し耳を劈く。
止まったかと思えばまた鳴り出す。それが何度も続いた。
彼女の乗った新幹線がホームから姿を消すと、途端に静けさが戻った。
後日、友人にその後大丈夫だったかを聞いてみたところ、新幹線の車内はとても静かで、その後何事もなく帰宅出来たそうである。
(超-1 2008/「騒々しい」より)




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