【リライト】一見の判断

2008年04月11日 00:51

 大木さんは喧嘩が強く体格もいい。
 その上、泥酔した帰り道にトラックで撥ねられて出来た眉の上の傷と、その影響で伸び揃わなくなった眉毛のせいで、彼を見た殆どの人が、真っ当な社会人と思ってくれない。
 そんな彼だったが、あっち方面の話はてんで弱かった。
 対照的に、彼の十年来の付き合いとなる先輩は、そっち方面には強い。
 何しろ先輩は見える人。そして周囲を巻き込む人だった。

 ある夜、大木さんの携帯に先輩からの着信が入った。
 近くのスナックで呑んでいるから迎えに来いと言う。
 大木さんに拒否権はない。
 車を走らせ、スナックの前で先輩を乗せると、来た道をとって返した。
 射影の少ない道路を飛ばしていると、前方に人影が見えた。
 スーツ姿の男性が、道路を横断しようとしている。

「そのままアクセルを踏め」
 さっきまで眠りこけていた先輩が、不意に彼に命令した。
 また酔っぱらって、と思い、彼は車のスピードを落とし始めた。
「なにしてんだよ! いいから行けよ!」
 語気を荒げて先輩が命令を繰り返す。
 もとより、大木さんに拒否権はない。
 覚悟を決めてアクセルを踏み込む。
 ぶつかる!
 大木さんは覚悟を決めた。
 一瞬、スーツ姿の男と目が合った。
 次の瞬間、車は男を貫通し、何事もなかったかのように走り続けた。
 バックミラーを見ると、男は変わらず立ち続けている。
「お前、いちいち死人見て怖がってんじゃねぇよ!」
 先輩は彼を叱り飛ばした。

「先輩は一目見てわかるかもしれませんけど、僕にはわかりませんからね。
 毎回、生きてる人間を轢いてしまうんじゃないかと、生きた心地がしません」
 大木さんは大きな肩をがっくりと落とし、とても大きな溜息をついた。

(超-1 2008/「一見の判断」より)


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