【リライト】原因

2008年04月11日 00:52

 風呂の蓋を捲ると、水量が減っている。
 白井君は隅々まで見渡したが、栓が緩んでいるわけでも、浴槽に穴やひびが入っているわけでもない。
 水量はたびたび減っていた。
 気づかずに追い炊きをかけ、激しくボコボコいう音に気づいて慌てて火を消し、事なきを得たこともあった。
 水量は毎日一定の量が減るわけではなかった。
 まったく減らないこともあれば、目に見えて減っていることもあった。

 ある夜、白井君は尿意に目を覚ました。
 トイレに向かうと、風呂場からぼんやり灯りが漏れている事に気づいた。
 彼はそっと風呂場を覗いた。

 そこには女がいた。
 洗い場に膝をつき、浴槽の縁に両手を突っ張り、浴槽内に頭を突っ込んでいる。
 ごくっ、と喉を鳴らす音が続き、少しして、はぁ、という息遣いが聞こえた。
 女は、風呂の水を飲んでいた。
 不意に女は浴槽から頭を出し、硬直している白井君に向き直った。

「いつも美味しく頂いています」

 そう言う女の顔は、美酒に酔うかのような恍惚とした表情をしていた。

 気づくと、朝日の差し込むキッチンで目が覚めた。
 夢だったのだろうか。
 そう思いながら風呂場へ行くと、昨晩女が手を置いていたと思われる場所に、垢がこびり付いていた。
 その垢を見て彼は、あることに気づいた。
 風呂の水が減る時は、数日間水の張り替えをしていない時が多かった。
 その日から彼は、残り湯を溜めず、まめに水の張り替えをするようになった。

 彼はそのアパートに今でも住み続けている。
 何故引っ越さないのかと、率直な疑問をぶつけると、彼は照れながら応えた。

「わりと美人だったんですよ。それに、直接的な被害はなかったから……」

(超-1 2008/「原因」より)


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