【リライト】九十番目

2008年04月11日 01:03

 藤崎さんは、ある日友人の小島からビデオカメラを手渡された。
 怖い話をカメラの前で話し、録画して欲しいという。
 なんでも、百物語をやりたいが人を集めるのは難しく、ビデオレターで集めようと閃いたらしい。
 藤崎さんで丁度九十人目だという。
 恥ずかしかったが面白そうでもあり、彼は快諾した。

 さすがにひとりで録画をするのが恥ずかしかった藤崎さんは、助手という名目で彼女を呼んだ。
 趣旨を説明すると、バカにしながらも乗り気だった。
 まず二人は雰囲気を掴もうと、入っているテープを再生した。
 今まで出逢ったことのない、見ず知らずの人たちがカメラの前で怪談を語っている。
 二十人ほど見て、止め、テープを末尾にあわせる。
 彼女にカメラを回してもらいながら、彼は子供の頃にやったコックリさんに纏わる話を披露した。
 内容はコックリさんを一緒にやった友人が体調を崩した為、学校内でコックリさんが禁止になるというもの。
 話は二分ほどで終わった。

 マメな彼女ができを確認している間、藤崎さんはベランダで一服しながら、小島に電話をした。
「そうか、それで、どうだった?」
「何が?」
 どうも小島の歯切れが悪い。
「何か起きなかったか?」
「別に何も。それ、どういう意味?」
「いや、何でもない」
 その奥歯に物が挟まったような言い方に、不快感を憶えた藤崎さんは、きつい口調で彼を問い詰めた。
「わかった、言うよ、言うから、そんなに怒るなよ。
 ……実はあのビデオ、お前で百人目なんだ」
 藤崎さんにはその意味がよくわからず、聞き返した。
「ほら、百話を話し終えると、何かが起こるって言うだろ」
「じゃあ何か? 俺で実験したって言うのか?」
「そんなつもりじゃなかったけど……」
「ふざけんな! おあいにく様だが、何も起きちゃいないぜ。百物語なんて、所詮くだらない遊びなんだよ!」
 怒りにまかせて彼が怒鳴ったその時、部屋にいた彼女がリビングから血相を変えて飛び出してきた。

「テレビに、テレビにっ……!」
 パニックを起こした彼女をなだめ、携帯から聞こえてくる小島の声を無視しながら、リビングに入る。
 ビデオは再生を終え、自動巻き戻しをはじめており、テレビにはそのノイズが映し出されている。
 彼はソファに座ると、ビデオカメラのリモコンを手に取り、停止ボタンを押した。
 続けてテレビのリモコンを持ち、電源ボタンを押した。
 電源が落ちたブラウン管には、ソファに座る彼の姿が映っている。
 その後ろに、長い髪の見知らぬ女が立ち、彼を見下ろしている姿が映っている。

 彼は動けなくなった。
 その目の前のテーブルに投げ出された携帯電話からは、小島が何度も彼に呼びかけてくる。
「どうした? 何かあったか? 何かあったか?」

(超-1 2008/「九十番目」より)


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