【リライト】いたずら

2008年04月11日 23:21

 高校生の頃、同じクラスに高遠君という生徒がいた。
 彼はクラスでも目立ついたずら好きで、黒板にでかでかと落書きをしたり、誰か隙のある人の背後から大声を出して驚かせたり、行事の度に率先して馬鹿なことをしてはみんなを笑わせていた。
 そんな彼が入院したと聞いた時は、またふざけすぎて転んで骨折でもしたんだろう、くらいにしか思っていなかった。

 ベッドの上の彼は、まるで別人のようにぐったりしていた。
 頬がこけた顔で出迎えた彼に、私達は言葉を失った。
 間もなく先生から、彼が難病に冒されていることを告げられた。
 私達は代わる代わる見舞いに行き、クラスの様子を撮影した写真やノートを彼に渡した。
 空いている時間を利用して、千羽鶴も織り上げた。
 彼ならきっと、こんな病気なんか蹴散らして、いつもと変わらぬ顔をして、教室に帰ってくる。
 そしていつものように、バカをやってみんなを笑わせてくれるはず。
 クラスの誰もが、強く信じ、願っていた。

 半年の闘病生活の後、高遠君は眠るように息を引き取った。
 その知らせを受けても、実感がわかなかった。
 クラスの仲間が死ぬ、などという、ドラマのような出来事を、すんなり受け止められるはずもなかった。

 その翌日のホームルームで、先生は一枚の手紙を取り出した。
 それは、高遠君が書き遺したものだという。
 ご両親から渡されたという手紙を、先生が読み上げた。
 私達への感謝の気持ちが綴られたその手紙に、先生は言葉を詰まらせ、何度もつっかえていた。
 教室のあちこちから、嗚咽が漏れる。
 その時ようやく、私達は現実を受け止めることが出来たのかもしれない。
 先生が手紙を読み終え、静寂の中で誰もが彼を偲んでいた。

 その時、黒板消しが大きな音を立てて床に落ちた。

 皆が一斉に顔を上げ、黒板消しを見た。
 先生が驚きながらもそれを拾い上げようとすると、高遠君が座っていた席の椅子が揺れた。
 小刻みな振動とともに、机が徐々に前に動き出し、危うく机の上の花瓶が落ちそうになる。
 やがて何事もなかったかのように、振動は収まった。
 クラス中が唖然と、高遠君の席を見つめていた。

「高遠のやつ……」
 先生が涙をぬぐいながら、笑顔で呟いた。
 その時、そこにいた誰もが思い描いたに違いない。
 高遠君の、小憎らしいその笑顔を。

(超-1 2008/「最後のいたずら」より改題)

※せんべい猫より
 この話の原題は「最後のいたずら」という題名でしたが、題名により展開が読めてしまう為、「いたずら」と改めさせていただきました。
 改題についてご理解いただければと思います。


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